『いりびと』など女優のポテンシャルを極限まで引き出す「連続ドラマW」の名サスペンス
傑作ドラマを多数生み出しているWOWOWだが、一番の魅力は女優のポテンシャルを極限まで引き出したサスペンスドラマだろう。
例えば11月28日から放送・配信が始まった『連続ドラマW いりびと-異邦人-』(以下、『いりびと』)で主演の高畑充希が演じる菜穂は、高畑の20代の総決算であると同時に新境地と言える役柄だ。
小説家・原田マハの『異邦人』(PHP文芸文庫)をドラマ化した本作は、京都の絵画業界を舞台にしたサスペンスドラマ。高畑が演じる菜穂は美術館の副館長で出産を控えた妊婦。京都で出産の準備をしていたのだが、ある老舗の画廊で出会った一枚の絵画に心を奪われる。
本作では絵画業界の内幕が、様々な視点から語られる。どんなアートも投機対象でしかないという身も蓋もない現実が描かれ、お嬢様育ちの菜穂は現実に押しつぶされてしまうのかと最初は思う。だが、話が進むにつれ、菜穂の隠し持つ強さが明らかとなり、やがて物語の印象は大きく変わっていく。
つまり、菜穂の存在自体がとてもサスペンスに満ちているのだが、そんな菜穂を高畑は見事に演じきっている。
菜穂は、妊婦ということもあってか動きがゆったりとしている。表情も抑制されており静かで淡い芝居が展開されるのだが、彼女が何か重たいものを抱えているという雰囲気は伝わってくる。劇中で象徴的に扱われるクロード・モネの絵画「睡蓮」のように、ただ立っているだけで青白い光が炎のように滲み出ているかのような芝居である。
元々、高畑は『Q10』(日本テレビ系)や『とと姉ちゃん』(NHK総合)のようなふつうの女の子を自然に演じる一方で『過保護のカホコ』(日本テレビ系)のようなケレン味たっぷりの漫画的なキャラクターもこなす演技の幅が広い俳優だった。
静かな立ち振舞いでありながらケレン味を感じさせる菜穂には、高畑が培ってきた演技の全てが凝縮されている。菜穂を演じたことは30歳を前にした高畑にとって大きな経験となったのではないかと思う。こういう作品に出会える俳優はとても幸せだ。