『最愛』真田ファミリーの闇は深まるばかり 加瀬と後藤が綴っていた、心に秘めた本音
では、政信はどうだろうか。彼もきっと真田ファミリーというポジションを愛しているのだろうが、家族のために忠誠を尽くす加瀬や後藤とは熱意が異なる。梓から期待されている梨央に噛み付く姿勢を見せていたことから、彼の言動の源はもっとずっと幼い承認欲求のようなものに見える。それゆえしおりの死や父・達雄(光石研)について「父さんが死体遺棄だよ……俺はけっこう傷ついた」と繊細な一面を見せていたのは、きっと本性の部分なのではないかと感じた。虚勢を張って強く見せているが、実際は誰かのために罪を抱えることなど到底できないのではないだろうか。
とすると、残るは梨央と梓だが、梨央のペンは今も優が所持している。ということは、梓のペンである可能性が最も高くなるような気がするが、ここで小柄な梓が自らの手で長身の昭を手にかけられるのだろうかという物理的な難しさが壁となって立ちはだかる。“梓が誰かに頼んで実行犯が別にいるのだ”と考えだしたら、逆に“真犯人である何者かが梓のペンを手に入れて真田ファミリーに疑いの目が向くように仕掛けた”という推理も成り立ってしまうのも悔しいところ。
あるはずのない証拠品。そう聞いて、15年前に殺害された渡辺康介(朝井大智)の遺棄現場に、梨央が大輝からもらった手紙入りのお守りが落ちていたことを思い出す。達雄がわざわざ死体を埋める前に梨央のお守りを持っていくわけもなく、いまだになぜそのお守りがそこに埋まっていたのか説明がつかない。あのお守りの意味を知っている何者かがわざわざ置いていったと考えるのも、ありえる話ではないだろうか。
そう考えると、急にまた大輝のもとを訪ねてきた藤井隼人(岡山天音)の存在感が大きくなってくる。白山大学陸上部員として梨央のお守りをもらっていた1人であることなど、藤井に関してはまだまだ語られていない謎があり、あの部活の日々を、そしてあの合宿所を愛していたというのは明白だ。
15年前から梨央のことを見つめ、あのお守りの存在を知っており、何よりも事件証拠品の近くにいる人物としてはやはり注目せずにはいられない。しかし、そうなると大輝だって同じになってしまうのもまた悩ましいところではあるが……。
ペンの存在によって一気に犯人候補絞られたと思いきや、空を掴むような気分になっていく。だが、その読みきれない部分が視聴者としてはたまらない。残り9、10話で、それぞれの愛する思いはどこに着地するのだろうか。すべては、愛するがゆえに――。譲れない最愛がぶつかりあった先に何が残るのか、エンディングが楽しみでもあり、真実を知るのが少し怖くもある。
■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS