市川実和子、松村沙友理、徳永えり 『ずっと独身でいるつもり?』で進み続ける女性たち

『ずっと独身~』松村沙友理らが好演

 10年前に執筆したエッセイから一躍有名作家となった主人公・本田まみ(田中みな実)と、彼女が出演する配信番組をきっかけに交錯する女性たちの、それぞれが抱える生きづらさとそこから踏み出そうとする小さな一歩を描き出した映画『ずっと独身でいるつもり?』。

 本作では、仕事にやりがいを感じながらも迷走し、自身の年齢に対して周囲から「ずっと独身でいるつもり?」と心配される主人公・まみが見せる寂しさや希望もさることながら、主人公の脇を固める女性たちも魅力的だ。

不満と孤独を募らせる中で、市川実和子が見せた愛おしさ

 市川が演じるのは、まみのエッセイを支えに自立した生き方を貫く由紀乃。映画冒頭、配信番組に出演したまみが、10年前のエッセイで綴ったこととは真逆の発言をしたことに、由紀乃は苛立ちを隠せない。由紀乃の凛とした表情や服装から、彼女が自立した自分の生き方に誇りをもっていることが分かる。一方で、由紀乃の口元が鮮やかな口紅で彩られている時に限って、口角は下がり、自分の生き方に不満を抱えているようにも見える。そして皮肉にも、同窓会で再会した元カレに束の間のときめきを味わっていた時、そして元カレと付き合っていた時の彼女の表情は、今の彼女よりも幸せそうに見える。市川が見せる表情のギャップが、由紀乃が抱える生きづらさ、自分らしい幸せを追い求める彼女の苦悩を教えてくれる。結婚し、子供もいる同級生の彩佳(徳永えり)から悩みを打ち明けられた由紀乃は、自転車で駆けながら叫ぶ。

「結婚したらさみしさは消えるんじゃないのかよ!」

 劇中、由紀乃は「一人が怖かった」自分にガッカリしていた。この叫びには、彼女が心の内にひっそりと抱いていた希望が打ち砕かれたことへの悔しさが集約されていた。市川は、劇中の大半でブスッとした表情を見せているが、物語が進むにつれて、それは「一人が怖かった」ゆえの表情だったのだと気づかされる。

夫への小さな不満を抱えながらも口に出せない徳永えり

 “なんちゃってイクメン”の夫への小さな不満を抱えながらインスタ主婦を続ける彩佳を演じた徳永。本作の登場人物の中でも感情の機微が少ない彩佳は、夫にも、同窓会で再会した由紀乃たちにも、同じような笑顔を向ける。しかしその笑顔はどこか弱々しい。言葉使いもはっきりとした物言いをする由紀乃とは対照的だ。だが、その心に小さな不満がどれほど蓄積しているのかは、表情や言葉が少なくても十分理解できる。徳永のぽつりぽつりとした台詞の言い回しは、もしかしたら彩佳のように、小さな不満を抱える自分を癒すかのように、“丁寧な暮らし”を発信する女性がいるのかもしれない、と思わせるほど、現実味があるものだった。

 「結婚すれば幸せになれると思ってた」と彩佳は言った。次から次へとライフイベントが押し寄せ、自分の生き方を見失いかけていた彩佳だが、最後には夫と向き合い、小さな一歩を踏み出す。彩佳が決断する時、徳永の演技に大きな変化が生じるわけではないのだが、視線が少し上がったり、目に光が感じられるところから、彩佳の勇気が伝わってくる。感情の機微が少なくとも、しっかりと彩佳の変化が感じられるのは、作品が求めることに真摯に向き合う徳永の演技あってこそだと感じる。

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