「日本はコンテンツ自給自足ができる珍しい国」  配信データサイトFlixPatrolのCEOに独占取材

FlixPatrolのCEOに独占取材

 今年10月、Netflixは定期株主向け説明会で、視聴データ測定方式の変更を発表した。11月16日より、「Top 10 on Netflix」(https://top10.netflix.com/)にて世界各国の週間視聴ランキングを公表している。これにより、2020年2月よりインターフェース上で発表していた「TOP 10リスト」にも異変が現れている。今後、Netflixの視聴データはアカデミー賞の投票集計も担当する会計事務所のアーネスト&ヤングが管理し、サイト上で発表されるという。以前のデータ測定は、映画またはシリーズのエピソードを2分以上視聴したアカウント数で行っていたが、変更後は累計視聴時間が反映されている。Netflixは兼ねてからデータ非公開主義をとっていて、クリエイターやライセンサーでさえもどれだけの視聴者に観られたのかを知ることができなかった。

 世界的に高まるデータ解析ニーズに応えたのが、チェコのスタートアップ企業が集計する「FlixPatrol」(フリックスパトロール)だった。筆者がこのデータサイトの存在を知ったのは2020年6月、韓国ドラマの世界的人気について調査している際に偶然見つけたのが最初だった。そして『イカゲーム』の世界的大ヒットによって、Netflixのテッド・サランドスCEOが公式に発言した数字以外は、「FlixPatrolによると」といった表記とともに語られるようになった。FlixPatrolが提供する世界ランキングのほか、国ごとの分析ページからは地域特性や視聴傾向が見え、興味深い(参考:https://flixpatrol.com/market/japan/)。

 例えば、日本はアニメの視聴が全体の27.6%を占め世界第1位だが、これに続くのはバハマの22.4%、アイルランドの20%で、意外なアニメ消費国の姿が浮き彫りになる(参考:https://flixpatrol.com/preferences/netflix/genre/animated/)。

 リアルサウンド映画部では、FlixPatrolの創立者でCEOのトマス・ヴィスコチルに独占インタビューを試み、起業の経緯やデータを読み解くことで見えてきたNetflixなどで世界配信される作品のトレンド観測、日本の視聴傾向の特異性について聞いた。

「ストリーミングでは、ありとあらゆるジャンルが絶対的なブームになっている」

FlixPatrolのCEO トマス・ヴィスコチル

――FlixPatrolおよび、会社設立の経緯は?

トマス・ヴィスコチル(以下、ヴィスコチル):FlixPatrolのローンチは2020年ですが、私たちの会社は中央ヨーロッパのストリーミングガイドFilmtoroを2015年から提供しています。どの作品がどのサービスで配信されているかを確認できるサイトです。私自身は30年来のテックギークで、20年来の映画オタクでもあります。この20年間で、いくつかの映画やテレビシリーズ関連のプロジェクトを立ち上げ、売却してきました。FlixPatrolは3つ目の冒険になります。

――FlixPatrolを立ち上げたきっかけは何だったんでしょうか?

ヴィスコチル:当社はスタートアップのアクセラレーター(大手企業・資本による事業成長促進プログラム)に参加していて、ストリーミング時代の新規ビジネス開発支援を受けています。データに着目するのは当然の成り行きでした。いくつかのアイデアを検討する中で、2020年2月にNetflixがTOP 10リストを発表し始めたことで、アイデアが一気に加速しました。

――データ集計はどうやって行っているのですか?

ヴィスコチル:毎日、全ての参加国の主要ストリーミングサービスのデータを収集し、人気を測定しています。そしてそのデータを当社のデータベースと照合し、デイリーランキングを算出しています。

――Netflixなどのストリーミングサービス企業と直接やりとりすることはありますか?

ヴィスコチル:ストリーミングサービス企業とやりとりをするのは、サイト上で使用する画像や説明文などの公式資料についてのみです。極めて良好な関係を築けていますが、彼らはデータの提供に関しては協力してくれませんね。

――FlixPatrolをローンチして以来、世界における人気コンテンツのセオリーは見つかりましたか?

ヴィスコチル: Netflixの世界各国TOP10からは、地域ごとの特性がはっきりと見て取れます。地域特性に基づく嗜好性分布はすでに行われていた研究と合致し、Netflixのチャートがオリジナル作品を宣伝するための人工的なチャートでないことがわかります。例えば、ラテンアメリカの視聴者はメロドラマが好きで、アメリカの人々はクライムサスペンスやドラマを多く視聴しています。東ヨーロッパの人々はファンタジー作品を観るのが好きで、ロシアの視聴者はアクション映画が好きだということもわかります。このデータから一目瞭然なように、ストリーミング事業者は、こういった視聴者の嗜好・動向に関する貴重なデータを大量に保有しているので、地域性、スターの人気度、人気ジャンルなどに基づき細かに調整しコンテンツを制作・提供することができるのです。

――データから浮かび上がる、映画やドラマの最近の傾向は?

ヴィスコチル:パンデミックの影響で市場全体が逆転していますが、映画館やテレビなどの従来のメディアからストリーミングへの変化が加速しています。この変化に伴い、新規コンテンツの傾向も変わってきています。今まで通りのセオリーで考えると、スーパーヒーロー映画や大作アクション映画は、映画館に観客を呼び戻すことができる唯一のジャンルです。ところが、ストリーミングではありとあらゆるジャンルが絶対的なブームになっています。数年前までは、映画館では月に数本の新作映画、テレビでは数十本の旧作映画と数本の新しい番組しか観ることができませんでした。それが今では、世界中のあらゆる場所で作られた、あらゆるジャンルの、あらゆる興味に合った何百もの新しい作品がストリーミングサービスから送られてくるのです。しかも視聴者の負担はたったの数ドルです。これは、私たちが世界を本当に知ることができる素晴らしい変化だと思います。

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