“世界で戦う作品づくり”の鍵になる? 『マイネーム:偽りと復讐』の高評価が示唆すること

『マイネーム』の高評価が示唆すること

 『イカゲーム』が世界各地で特大ヒットを成し遂げ、韓国ドラマにかつてない熱視線が注がれている。「ハードなテイストの韓国ドラマが観たい」という飢餓感が蔓延するなか、間髪を入れずNetflixで配信されたのが、“逆おとり潜入捜査”のスリルと熾烈なアクションを描いた『マイネーム:偽りと復讐』だ。

 ここでは、本ドラマ『マイネーム:偽りと復讐』を起点に、話題を集めている韓国作品と日本のドラマの現状を振り返り、世界で戦う作品づくりとは何なのかを考えていきたい。

 激しいアクションを繰り広げる本作の主演は、同じくNetflix配信ドラマ『わかっていても』で主役を演じた、ハン・ソヒ。ラブロマンスのヒロインから、復讐に命を懸け敵をなぎ倒していく、本シリーズでの陰のある女性刑事役への変貌は、多くの視聴者を驚かせている。

 モデルとして芸能界デビューを果たしたソヒだが、本シリーズでは10キロ体重を増やしてハードなフィジカルトレーニングをこなし、格闘術を習得しつつ肉体改造を行ったというほど、このドラマには気合を込めている。その成果は、本シリーズの格闘シーンの切れ味を観れば分かるだろう。しかも、華麗な体術というよりは、まさに瀕死の狼のような危機迫る戦いぶりである。

 『イカゲーム』のキャストたちが、アジア系の俳優としては異例といえるほど世界的に注目を浴びていることを考えると、Netflixでの活躍は、俳優にこれまでなかった新たな可能性を呼び込むことになる場合がある。そう考えると、ここでの突出した努力の意味も理解できるところだ。

 物語は、香港映画の傑作ノワールサスペンス『インファナル・アフェア』(2003年)を想起させるような、犯罪組織の一員が警察に潜り込むというもの。そんな危険な行動に出るのが、ソヒ演じる主人公のジウなのだ。彼女は、麻薬組織の一員である父親を殺されたことで、謎の犯人の影を追い復讐するため、あえて麻薬組織で成り上がり、犯罪集団の後ろ盾と情報を得ながら警察内部で犯人を捜査することになる。

 “オ・ヘジン”と名を変え、警察の麻薬捜査チームで奮闘するジウと衝突したり、ときに見守る態度を見せるのは、アン・ボヒョン演じる、先輩のピルト。アンはTVドラマ『梨泰院クラス』とは異なる誠実なナイスガイのイメージで、ハードな展開のなかでロマンスの雰囲気を運ぶ。

 この恋愛部分について賛否の声があることは事実だ。恋愛描写は、ドラマにおいて視聴者の感情をコントロールしやすい便利な要素だが、“女性主人公に恋愛要素が必要だ”というステレオタイプな考え方を避ける意味で、近年の進歩的な作品の中には、ラブストーリーでないジャンルでは脱・恋愛を掲げるものが多くなってきている。とはいえ、本シリーズはどちらかといえば、ギャング映画や日本の任侠映画などにおける、癒しの希求や昂りの発露として、別の意味でのステレオタイプに接近しているといえるのではないか。

 『インファナル・アフェア』や『レオン』(1944年)に類似した展開があるように、本シリーズは数々の既存の作品の要素を借りていて、物語や演出としてのオリジナリティに欠け、劇画的な荒唐無稽さが往年の日本の「大映ドラマ」の数々を思い起こさせる。その意味では、ありがちとも古いともいえる作品になっていることは確かなのである。だがその一方で、このパッチワークのようなストーリーや演出を、いま臆面もなく提出できるというところに、韓国映画・ドラマの強さがあることも、また事実だといえよう。



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