『カムカムエヴリバディ』で広がる小野花梨の可能性 きぬちゃん役でさらなる飛躍へ
放送中の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)において、非常に重要なポジションに配されている小野花梨。彼女が演じるのは、ヒロイン・安子(上白石萌音)の幼なじみである“きぬちゃん”こと水田きぬだ。友として安子を支え、ドラマの活気づけに一役買う、小野の貢献度の大きさに注目である。
本作で小野が演じるきぬは、しっかり者で大人びた人物。先に述べているようにヒロイン・安子の親友だ。これまで朝ドラを観続けてきた方ならば、このポジションがいかに重要なものか周知のことだろう。前クールに放送された『おかえりモネ』(NHK総合)では、「親友」だと明言されているわけではないが、清原果耶演じるヒロインに対して、恒松祐里や今田美桜がこのポジションにあたった。さかのぼれば、『おちょやん』(NHK総合)では東野絢香が、『スカーレット』(NHK総合)では大島優子が、『なつぞら』(NHK総合)では伊原六花らがここに配されていた。
近年で一番インパクトがあったのは、『半分、青い。』(2018年)の奈緒と清野菜名の存在だろう。両者ともに、朝ドラへの出演は同作が初めて。これを機に奈緒は広く認知され、いまでは『先生、私の隣に座っていただけませんか?』『君は永遠にそいつらより若い』『マイ・ダディ』『草の響き』と出演作が立て続けに公開されるような存在になり、「何を観ても奈緒が出ている」という状況を生み出しているところだ。清野はもともとキャリアがあったが、同作への出演でさらに飛躍。現在は主演ドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系)が放送中である。
「親友」の役には、ヒロインを、ひいては作品を支えられるに相応しい実力が求められ、その後の俳優人生において大きな転機になること必至だ。少しばかり長くなってしまったが、『カムカムエヴリバディ』でこのポジションを小野が務めていることの重大さがお分かりいただけたのではないだろうか。放送開始からまだひと月も経っていないため、きぬがフィーチャーされる瞬間というのは少ないが、ヒロイン役が上白石から深津絵里へ、そして川栄李奈へとバトンが引き継がれていく本作の構成を考えると、きぬの存在感はこれから一気に増してくるのではないかと思う。とはいえ現時点でも、安子を中心とした物語展開に自然と寄り添う小野の演技スタイルは素晴らしい。視聴者が安子の恋物語を息を呑んで見守ることを促すのに関して、小野の存在も大きいのではないだろうか。
個性的な登場人物が多く、キャラクターによっては芝居が大味だ(これが朝ドラにおいては妙味となってもいる)。シーンごとに、どれくらいまで役のキャラクター性を押し出すか。あるいは引くか。これによってその役はもちろんのこと、作品の印象も変わってくる。つまり安子に寄り添うというのは、作品そのものに寄り添うということ。出すのか、引くのかーーこのさじ加減に小野の器用さが見て取れるのだ。多くの視聴者に自身の演じるキャラクターを差し出しながらも、物語に集中させる。彼女を見ていると、「ベテラン」という言葉が浮かんでくるというものだ。