『最愛』2006年を境に狂わされた梨央としおりの15年 人の変化には必ず理由がある
ようやく抱きしめ返された手。だが、それは「もう会わんようにする」と、最後の抱擁である覚悟を決めるためのものだった。
梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平)は、第1話、第4話と想いが溢れ出す形で体を寄せ合ってきた。しかし、どちらも抱きしめ返されることはなかった。大きな秘密を抱えてしまった梨央の罪悪感、そして刑事として梨央を疑わなければならない自責の念。お互いを大事に思っているにも関わらず、その気持ちをまっすぐに表すことができない事情が、常に彼らを縛り付けてきた。
物語が大きく動き出した金曜ドラマ『最愛』(TBS系)の第6話。梨央が隠し続けてきた秘密は弟の優(高橋文哉)が逮捕されることにより明るみになり、大輝は捜査を続けることで“梨央を守りたい“という信念を貫くことができた。これで、2人はようやく向き合うことができるはずだった。だが、それは優=加害者に同情しすぎるという、大輝の刑事としての立場を危うくする行動でもあったのだ。
1つクリアできたと思ったら、また新たな壁が立ちふさがる。『最愛』から目が離せないのは、その連鎖が止まらないからだ。加瀬(井浦新)の活躍によって、不起訴となった優。渡辺昭(酒向芳)の首を締めて池に落としたことは事実ではあったものの、その後に生きていたことが判明したのだ。だとすると、今度は昭を殺した真犯人がまたしてもわからなくなってしまう。
そして、真田グループに対してなぜ執拗につきまとうのか、その理由がわからなかったフリーライターの橘しおり(田中みな実)。彼女が、15年前に白山大学陸上部とのつながりを持っていたことが明らかになる。屈託のない笑顔で集合写真に映る“松村栞”の笑顔。その明るい表情が消え、冷ややかな視線を持つ“橘しおり”になった背景がまた気になってくる。
まるで人が変わったように……そう言いたくなってくるしおりの変わりっぷりだが、すでに私たちは同じように変わってしまった1人の女性を知っている。“朝宮梨央”から“真田梨央”へ。梨央もまた大きく変わってしまったように見えたことを思い出す。しおりもまたあの事件があった2006年を境に、人生を狂わされてしまったのではないかと想像してしまう。
本人が望んでいなかったとはいえ、傍から見ればシンデレラのように成功者へと駆け上がった梨央。対して、その時期に両親が離婚したという経歴だけを見ても、しおりにとってその変化はうれしいものではなかったはず。多くを手にした梨央のことを複雑な思いで見つめていたとしても不思議ではない。