原田知世が放つ見事な“受け身力” 『スナック キズツキ』は明日を生きるための力をくれる

『スナックキズツキ』がくれる明日への勇気

 特に印象的だったのは、徳永えり演じるコンビニ店員の富田さんの回である第5話だ。「百均の絆創膏、靴擦れに貼って」その貼った後にでた包み紙を手でクシャッとして鞄にしまうのも妙にリアルな、密やかな片想いの切なささえも路地を通して描かれる「道」の回だった。

 本作のオープニングは、登場人物それぞれが過ごす仕事場や家などに「スナック キズツキ」の看板が置かれていることで、そのスナックが、小さく傷ついた、日々仕事や家事に頑張る全ての人の傍に寄り添い、開いている、それぞれの心の拠りどころとなるスナックであるということを示している。その複数のショットの中に、人物が足しか映っていない水溜まりのショットがある。第5話における富田がいろんな思いを抱きながら行き来する道にも、いつも水溜まりがあった。

 彼女は最初こそ、水溜まりを避けて歩いていた。1度目はただ素通りし、2度目は沈んだ気持ちを、イヤホン越しの音楽で鼓舞しながら。そして3度目は、スナック キズツキと出会った次の日。彼女はちょっとだけ明るい気持ちになって、昨夜トウコとしたしりとりを1人でしながら、水溜まりを軽やかに飛び越えるのである。

 「スナック キズツキ」は、訪れる客たちが、明日を生きるための力をくれる場所だ。トウコが作る美味しい飲み物で心を温め、心に積もった鬱屈をなにかしらの表現で思いっきり発散したら、傷ついてつかの間羽を休めにきた人々は、その店の扉のイラストの鳥そのもののように、大きく羽を広げて飛び立つことができる。高揚した、ちょっと恥ずかしそうな表情で出てくる人々は、心地よい余韻を心に抱いたまま、いつもと変わらない、何でもない明日を過ごす。でもそれはいつも通りの日々なのに、いつも通りではないのである。ちょっとだけ楽しくて、ワクワクする。それはもしかしたら、このドラマを観終わった次の日の、私たちの姿なのかもしれない。

■放送情報
ドラマ24『スナック キズツキ』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜放送
※テレビ大阪は毎週月曜深夜1:00〜放送
出演:原田知世、成海璃子、平岩紙、塚地武雅、小関裕太、徳永えり、西田尚美、丘みつ子、堀内敬子、吉柳咲良、八嶋智人、浜野謙太
原作:益田ミリ著『スナック キズツキ』(マガジンハウス刊)
監督:筧昌也、湯浅弘章
脚本:佐藤久美子、今西祐子
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)、井上竜太(ホリプロ)、奥村麻美子(ホリプロ)
オープニングテーマ:清竜人「コンサートホール」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
エンディングテーマ:森山直太朗「それは白くて柔らかい」(UNIVERSAL MUSIC)
制作:テレビ東京・ホリプロ
製作著作:『スナック キズツキ』製作委員会
(c)『スナック キズツキ』製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kizutsuki/
公式Twitter:kizutsuki_tx
公式Instagram:kizutsuki_tx

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