原田知世が放つ見事な“受け身力” 『スナック キズツキ』は明日を生きるための力をくれる

『スナックキズツキ』がくれる明日への勇気

愛されず愛さずに 傷付けられず傷付けずに 生きていけたらいいな
笑わず怒らずに 涙せず喜ばずにいられたら どれだけ楽で苦しいかな

 ドラマ『スナック キズツキ』(テレビ東京)のオープニングテーマ、清竜人「コンサートホール」の冒頭である。傷ついたり、逆に誰かを傷つけてしまったり、はたまた誰かを傷つけてしまったことに傷ついたりしているのが、このドラマの登場人物たちだ。

 だから、「傷付けられず傷付けずに生きていけたら」は彼ら彼女たち、もしくは、1週間「何でもないような顔をしてやり過ごして」きて溜めた「綿埃」まみれで、テレビ越しの原田知世の「今日もお疲れさん」を聞く視聴者の、切実な願いかもしれない。でも、「愛」と「傷付き」が並列で語られていることで思うのだ。それはきっと無理なのだろうなと。誰も傷つけずに傷つかずに、生きていくことなど。もしそれができたとして、それはきっと味気ない。常にいい人ではいられないし、完璧な人には到底なれない。でも、そのままでいいのだと思わせてくれるようなドラマ。それが、『スナック キズツキ』である。

 『スナック キズツキ』は、テレビ東京金曜深夜「ドラマ24」枠にて放送中だ。『僕の姉ちゃん』(幻冬舎文庫)もドラマ化(テレビ東京系・Amazon Prime Videoにて先行配信中)した益田ミリによる同名コミック(マガジンハウス)が原作であり、前述したオープニングテーマと、森山直太朗によるエンディングテーマ「それは白くて柔らかい」という2つの優しい楽曲に包まれる心地よさもたまらない。原田知世演じる、「スナック キズツキ」の店主・トウコさんが作る、心温まる飲み物や食べ物の魅力が、それを口にする客それぞれの独白によって語られるという、なんともお腹のすく、というより温かい飲み物と一緒に見たくなる趣向も、「食ドラマ」のテレビ東京ならではの強みである。また、浜野謙太演じるお酒の宅配業者“こぐま屋”とトウコのやり取りが、彼の人柄含めて可愛らしく、毎度各回の物語と絶妙にリンクしているのもいい。

 そして何より衝撃的なのは、原田知世である。「あんた」と呼びかけたり、「もろきゅう~」と合いの手を入れたりと、今まで見たことのない原田知世がそこにいるにもかかわらず、原田知世にしかできない役と思わせる不思議な魅力で、傷ついた人がたどり着くちょっと変わったお店「スナック キズツキ」のママ・トウコを演じている。

 トウコの魅力は、そのフワッと柔らかい佇まいそのものとも言えるが、まずその可憐さにある。例えば、レモンを齧ってスッパイ顔をしたり、のんびりトーストを食べていたら客が来たので手をパタパタとしながら立ち上がったり、店先にしゃがんで蟻の行列を眺めていたりする。「あんた」や語尾の「~かね」など、口調は十分すぎるほど大人であり、その口から語られる旅先や食べ物の物語は豊富な人生経験を物語っているが、それでいてふとした時に見せる少女のような佇まいというアンバランスさが、彼女の独特な世界観を形作っているのである。

 もう1つ、何よりの魅力が彼女の「受け身力」である。過度に客の心を救おうしたりアドバイスをしたりするのではなく、ただ相槌をうつだけのトウコは、まるで客自身を映す鏡、あるいは分身のような存在となって、彼ら彼女たちの心の奥底に秘めた思いを外に出す手伝いをする。後半の演奏タイムにおいても、始まりこそはアグレッシブに盛り上げたりもするが、一旦傷ついた人のモヤモヤを外に出すきっかけさえ掴めれば、あとは相手に全てを委ね、合いの手という形で、その心に寄り添う。

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