大阪の混沌さを158分で描き出す 『COME & GO カム・アンド・ゴー』の問題提起

『カム・アンド・ゴー』の問題提起

 劇中では登場人物各々の物語を通じて、あらゆる問題提起がなされていく。契約を振りかざされて故郷に帰ることすら許されない技術研修生や、金銭と引き換えに猥褻行為を強要される留学生の女性、働くカフェで売上金を盗んだとの疑いを一方的にかけられるネパール難民の男性。そうした異邦人に向けられる様々なレイシズムだけでなく、アダルトビデオへの出演強要やナイトクラブや出会いカフェなどの性風俗周りの描写も然り。それでもテーマを先行させて闇雲に何らかの結論を設けるようなストーリー構成に落とし込まず、あくまでも行き場を失った人々の彷徨を追い続ける。どこかヒリヒリした1日目から、ふたたびヒリヒリした傷が疼きだす2日目の描写を経て訪れる3日目の朝陽。どの物語にも開かれたエンディングは、名前が与えられたことでその形がようやく見え始めた“次の時代”にささやかな希望を見出していると見える。

 いくつもの印象的なエピソードがある中で、とりわけ興味深いのはやはり2日目の夜に展開する中国人観光客のラオファンと台湾からやってきたシャオカンの一連である。道に迷ったラオファンを、シャオカンはホテルまで送っていくと申し出て、2人は居酒屋で対話する。そしてホテルの大浴場で一緒に湯船に浸かる。ツァイ・ミンリャンの映画以外でリー・カーションの演技を見られるだけでもこの上ない贅沢さを感じるわけだが、同じルーツを持つ者でもわかり合えないものがあり、違う立場の者でもわかり合えるものがある。そしてそれは、対話をもって初めて成立しうるものなのだと実感することになる。

■公開情報
『COME & GO カム・アンド・ゴー』
11月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開
出演:リー・カーション、リエン・ビン・ファット、J・C・チー、モウサム・グルン、ナン・トレイシー、ゴウジー、イ・グァンス、デイヴィッド・シウ、千原せいじ、渡辺真起子、兎丸愛美、桂雀々、尚玄、望月オーソン
撮影:古屋幸一
音楽:渡邊崇
プロデューサー・監督・脚本・編集:リム・カーワイ
エグゼクティブプロデューサー:毛利英昭、リム・カーワイ
制作協力:KANSAIPRESS、株式会社リンクス、Amanto Films
製作:Cinema Drifters LLC
配給:リアリーライクフィルムズ/Cinema Drifters
2020年/158分/日本語・英語・韓国語・中国語・ベトナム語・ミャンマー語・ネパール語など/ビスタサイズ/5.1ch/DCP・Blu-ray
(c)cinemadrifters
公式サイト:www.reallylikefilms.com/comeandgo

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