大阪の混沌さを158分で描き出す 『COME & GO カム・アンド・ゴー』の問題提起
マレーシアで生まれ、現在は大阪を中心に活動するリム・カーワイ。自らSNSで“映画流れ者”と称する彼の最新作である『COME & GO カム・アンド・ゴー』は、その無国籍という作家性を地でいくような怪作だ。例えて言うならば、物語の舞台となる大阪の“キタ”と呼ばれるエリアの中枢に存在する“梅田ダンジョン”のような映画だ。どこからともなくやってきたあらゆる人種や民族が混在し、それぞれの持つドラマが時に混ざり合い、時に並行し、時にまったく絡むこともないまま去っていく。そんな大阪の混沌としたさまが、158分というインディペンデント映画にしてはなかなかの長尺の中に積み上げられていくのである。
その混沌さを象徴するかのように、この『COME & GO カム・アンド・ゴー』という映画のストーリーを簡潔に説明するのは容易ではない。平成の次の元号が発表される前日と当日、その翌日までの3日間にフォーカスを当て、中崎町の古い木造アパートで白骨化した老婦人の死体が発見されることを皮切りに、様々な国籍・民族の人々の物語が描かれていく。それはいわゆる“群像劇”というジャンルに含まれるようで、そうではない。一般的に群像劇に必要とされるような、彼らすべてを繋ぐ明確なできごとは存在せず、ただ「大阪の地で、その日その時間に生きていた」というあまりに大きな共通点しかない。それは暗に、この物語を単なるフィクションとして距離を置いて観るべきではないと伝えているかのようだ。
白骨化遺体が見つかったアパートの向かいで暮らす大阪ネイティブの中年男性がいて、事件を捜査する刑事がいて、日本語学校で教鞭を執る刑事の妻がいて、その刑事の妻はカフェで働くネパール難民の男性と恋仲にある。はたまた徳島から出てきた女性はAVのスカウトに声を掛けられるも逃げ出し、寝泊まりする場所を求めて点々とし、マレーシアから仕事でやってきた男性と出会う。さらに職場から脱走したベトナムからの技術研究生や、学費が払えず働き詰めになるミャンマーからの留学生、韓国で風俗嬢をスカウトして来日させるブローカーや、中国から初めて日本にやってきた観光客に、頻繁に来日するAVマニアの台湾人男性。まさにアジアのごった煮だ。
これはカーワイの作品群において、日本とアジアの関係をテーマにした「大阪三部作」の最終章に位置づけられるようだ。前作からはすでに8年もの月日が経過している。1作目はクリスマスの新世界を舞台に、北京からやってきた女性を主人公にした『新世界の夜明け』。2作目は年末のミナミを舞台に、香港からやってきた編集者の女性と日本の大学生の青年、キャビンアテンダントの韓国人女性とその恋人の在日韓国人との関係を交差させて描いた『Fly Me to Minami 恋するミナミ』。新世界、ミナミときて今度はキタと、順調に御堂筋線を北上している。