『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が涙を誘う理由 ポイントは“祈りの純度の高さ”

 そうした物語がピークを迎えるのが第10話の「愛する人はずっと見守っている」だ。この話は“神回”と呼ばれることも多く、今回の総集編でも話の中心の1つになることが発表されている。原作では序盤に語られるエピソードだが、アニメ版では第10話に挿入されることでヴァイオレットの成長が描き出されていく。

 第10話の内容は母親からの依頼で屋敷に訪れたヴァイオレットと、アンという幼い少女が中心となり語られていく。このアンの存在は、かつての「残酷ながらも誰にも抗えない運命を背負う少女」という意味でヴァイオレットと重なる。その少女に誰よりも想いを寄せている存在としての母親は、ヴァイオレットにとってのギルベルトと重なるように配置されている。アンと母親の関係性は、擬似的なヴァイオレットとギルベルトの関係性となる。

 アンがヴァイオレットに夕暮れ時に想いをぶつけ、一種の駄々をこねるシーンでは、それまで溜まった感情が爆発する。アンはヴァイオレットと違い、自分の感情を表現することに長けており、そこに躊躇がない。だからアンのどうしようもない憤りすらも、ヴァイオレットは手紙の代筆人として、その想いを受け止めなければいけない。それはまるで、過去の自分の苦しみをアンを通して受け止めているかのようでもある。

 第10話のラストのヴァイオレットの表情というのは、かつての自身の気持ちを受け止めると同様に、第1話で自身を見つめるホッジンズの視線に初めて気がついたという解釈も成り立つ。それが成長として繋がり、大きな感動を生んでいるのだ。

 京都アニメーションの作品を観ていると、抽象的な物言いになるが、その「祈りの純度の高さ」に圧倒される。ヴァイオレットもまた、戦争の加害者でもあり、被害者でもある。戦争や運命というものは、個人では避けようのない悲劇なのかもしれない。しかしその悲劇の中にある人々を少しでも祈りや願いを捧げ、救いを与えようとする。そういった想いが強くこもった作品たちこそが、京都アニメーションの作品を愛する人々が多く、今回の異例の放送に繋がったのではないだろうか。

 とてもわかりやすいキャッチコピーとして「泣けるアニメ」と呼ばれているが、その深い祈りとヴァイオレットへの祝福の念こそが、「泣ける」の正体であり、今作が高く支持される理由だろう。

■放送情報
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 特別編集版』
日本テレビ系にて、10月29日(金)21:00〜22:54放送
監督:石立太一
シリーズ構成:吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
原作:暁佳奈
制作:京都アニメーション

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ー永遠と自動手記人形ー』
日本テレビ系にて、11月5日(金)21:00〜22:54放送
※本編ノーカット
監督:藤田春香
監修:石立太一
シリーズ構成:吉田玲子
脚本:鈴木貴昭、浦畑達彦
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子
原作:暁佳奈
制作:京都アニメーション

(c)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる