『おかえりモネ』時間が止まったままの新次と亮 わだかまりを抱えた親子の行く末は
連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK総合)も最終章に突入し残すところ3週となり、いろんな人に徐々に救いが見え始めている。そんな中、いまだわだかまりを抱えたままで一向に吹っ切れた様子が見られず、どこか一点で時間が止まってしまっているのが及川親子だ。
第8週「それでも海は」では、新次(浅野忠信)と亮(永瀬廉)の間に何があったのか、東日本大震災で新次が船と彼の妻で亮の母親である美波(坂井真紀)という大きなかけがえのない生き甲斐を失っていた過去が明かされた。酒に溺れ見る影もない新次だったが、アルコール依存症の治療に通い徐々に快方に向かっていたそんな矢先、新次が失踪し、仮設住宅ではなくかつて家族で住んでいた家があった場所で飲酒をしているところを発見される事件が起こる。
その際、新次がお酒に手を出してしまった理由に号泣させられた視聴者も少なくなかったのではないだろうか。亮のメカジキの大漁報告を受けて、一番に一緒に喜びたい相手が、話し相手がいないことに気づき、改めて自分の心のど真ん中にいた大切な人の不在を突きつけられたと言うのだ。
亮が反射的に「ほら、おやじ! 母ちゃんがよく歌ってたやつ、歌ってやんよ!」と言って声を震わせながら歌を歌うも、あんなに悲しい痛ましい歌声は初めて聴いたかもしれない。それでも新次は「俺は歌なんかじゃごまかされない。俺は立ち直らねえ、立ち直らねえよ」と苦し紛れの精一杯の息子からの愛情表現であり、すがりたい想いを突き放し、自分の殻に閉じこもってしまう。
いつだって一人で抱え込み傷つき、自分とは悲しみも喜びも分かち合ってくれない父・新次に亮はやるせなさを滲ませていた。そして亮もどこかで“親父は親父。俺は俺”と線引きをしたようにも見えた。悲しいが、亮の方が先に新次から独り立ちし、個で生きていく覚悟を固めた瞬間だったようにも思える。ただ、新次は新次で情けない自分の姿を息子にだけは見せたくないのかもしれないし、何より自分の喪失に大切な存在だからこそ亮を巻き込んでしまいたくはないのだろう。あるいは、もし“亮まで失ってしまったら……”と思うがあまり、より慎重になってしまい触れるのが怖くなってしまっているのかもしれない。もしかすると新次は、自分が関わると周囲の人を不幸にしてしまうとさえ思っている可能性もある。
これは後で亮が百音(清原果耶)にこぼした「だって怖いじゃん。死ぬほど好きで大事なやつがいるとか。その人が目の前から消えるとか、自分が全部ぶっ壊れる。そんなの怖えよ」ともリンクする。結局似た者同士の及川親子なのだ。