『賢い医師生活』が描いた人間の成長と愛すべき姿 作品に込められた監督の願いとは
『賢い医師生活』シーズン2が最終回を迎えてしばらく経つ。
監督のシン・ウォンホは、「世界中の人がよい人であってほしい」という信念の基にドラマ制作をしてきたという。シン・ウォンホの『刑務所のルールブック』(原題:賢い監獄生活)から始まったこの“賢いシリーズ”は、1980年代初頭から2000年代まで行われていた韓国の小学校低学年の授業「賢い生活」が由来となっている。ちょうど、99ズ(主人公の医師5人を呼ぶときのファンの呼称。ソウル大学医学部を1999年に卒業した同期組の意)もこの授業を受けてきた年代のはずだ。
当時の教育カリキュラムに、このような記載があった。
“「賢い生活」は、身の周りの現象に対して関心を持って自身と社会及び自然との関係を考えてみさせることによって、児童が様々な状況の中で工夫しながら、賢く生きることができる生活の基礎を育成する統合教科である。"
また、具体的な事項としてこのようなことも書かれている。
“自分自身と他の人との関係を理解し、お互いに仲良く生きていける能力と態度を養う。”
舞台であるユルジェ病院では、働く医師達や、病や怪我を抱えて病院を訪れる人々の日常を描きながら、登場人物の深い内面についても焦点が当てられてきた。今回は、シーズン1から2にかけてのキャラクターの成長や変化に触れていきながら、改めてシン・ウォンホ監督の“賢い生活”とはどういったことなのかについて考えてみたい。
後輩に向けたチェ・ソンファの言葉が象徴するもの
脳神経外科副教授のチェ・ソンファ(チョン・ミド)は、何でもこなしてしまうのであだ名が「鬼神」。そんな後輩にも慕われるソンファに、こんなエピソードがあった。
シーズン1の第2話、レジデントのソクミン(ムン・テユ)は、脳神経外科長のミン先生(ソ・ジンウォン)が、経験のほぼないTSA(鼻カメラでの内視鏡検査)を担当することになり、「専門のソンファがやるべきだ」とソンファに直訴する。それは越権行為だと諭しながら一度は断るも、「患者が希望すれば別だけど」と伝えるソンファ。これを受けてソクミンは患者に話をしにいくのが、「難しい手術だからソンファが担当するべきなんです」と医療をする側としての正しさを主張するあまり、患者を怖がらせ、拒否される結果になってしまう。その様子を見ていたソンファは、「謝ってきて。今度患者に乱暴な口を利いたら許さないから」と伝える。
ソンファは、患者のためといいながら、論文のために彼女の手術が見たかったソクミンの本心をを見抜いていたのだ。このように、ソンファの素晴らしさの一つは、自身の信念を心に持ちながら行動し、時に伝えていくことである。そして、周りの人々にもいつの間にか彼女の良さが波及していることではないだろうか。ソンファの指導を受けながら、その背中を見てきたソクミンは、シーズン2の11話で、失明する可能性がある(しかし、手術を受けないと命に関わる)手術を受けないという患者に対して、写真を使用して家族と患者に丁寧に説明をし、承諾を得る場面が描かれた。この時のソクミンは、私利私欲ではなく、「養う家族のために失明はできない」という患者の立場を一番に考え、心を理解しようとする姿勢をみせた。そんなソクミンに、ソンファは「あなたの長所は、完成形ではなく、進行形の人間だということね」と声をかける。
人間は、今この瞬間に完成しているのではなく、出会いや出来事によって成長していくことをシーズンを通して実感させられる本作。それを象徴するような胸打たれる一言だった。