松坂桃李が観客に与える強烈な驚き 『孤狼の血』と『空白』のギャップを読む

松坂桃李が観客に与える強烈な驚き

 さて、このスーパーの店長・青柳役と対照的なのが、『孤狼の血 LEVEL2』で演じている刑事・日岡秀一である。同作はご存知のとおり、2018年に公開された『孤狼の血』の続編。前作ではまだ新人刑事としてヤクザと警察組織に板挟みにされ、翻弄されていた日岡だったが、今作では広島の裏社会の治安維持のため、見事にタイトロープを担っている。『空白』での松坂について、序盤から“覇気がない”と記したが、本作では真逆。松岡演じる日岡は、ヤクザも顔負けの非情っぷり。物語の冒頭から、重い鈍器を振るうような声で他を圧し、鋭利な刃物のような視線で観客までをも射抜く。敵には回したくない男である。

『孤狼の血 LEVEL2』(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

 『空白』での青柳と『孤狼の血』での日岡について、“対照的”、“真逆”と記したが、この二人のキャラクターには共通点がある。それは、“追い詰められる存在”だということ。『空白』ではモンスター化する被害者の父親に、『孤狼の血』では出所間もない極悪人から、とことんまで追い詰められる。後者では立場が立場なだけに、彼なりに闘うべく立ち回るものの、為すすべがないところまで追い込まれることになる。先に触れているように、“追い詰められる”というのは前提として、追い詰める側に対しての“受けの演技”が上手く機能していなければ成立するものではないだろう。アクションだけでも、リアクションだけでも、そのどちらかだけではダメなのである。

 近年の松坂の出演作を振り返ってみると、『新聞記者』(2019年)も『蜜蜂と遠雷』(2019年)も、『あの頃。』(2021年)も『いのちの停車場』(2021年)も、何かしらに追い詰められている。その対象は、有形・無形を問わない。今回の『空白』や『孤狼の血』のように実体を持つものもあれば、追い詰めてくるのが自身の精神的な問題であったりもするのだ。精神的な問題に追い詰められているのであれば、一人芝居に近いものがあると思う。しかし今回は、明確に相手が存在する。これらをどのように演じ分けるのか、力が試されるところなのだろう。松坂桃李はいま、まったく性質の異なる“追い詰められる者”を二作で演じている。彼の真価を堪能したければ、すぐに劇場へと向かうしかない。

※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記。

■公開情報
『空白』
全国公開中
出演:古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、寺島しのぶ
監督・脚本:吉田恵輔
音楽:世部裕子
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
制作プロダクション:スターサンズ
撮影協力:蒲郡市
配給:スターサンズ/KADOKAWA
製作:2021『空白』製作委員会
(c)2021『空白』製作委員会
公式サイト:kuhaku-movie.com

『孤狼の血 LEVEL2』
全国公開中
出演:松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦、毎熊克哉、筧美和子、青柳翔、斎藤工、中村梅雀、滝藤賢一、矢島健一、三宅弘城、宮崎美子、寺島進、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童、小栗基裕、吉田鋼太郎
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:柚月裕子『孤狼の血』シリーズ(角川文庫/KADOKAWA)
音楽:安川午朗
撮影:加藤航平
照明:川井稔
美術:今村力
録音:浦田和治
配給:東映
企画協力:KADOKAWA
(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会
公式サイト:https://korou.jp/
公式twitter:@Korounochi_2021
公式Instagram:@korounochi_movie

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