『恐るべき子供たち』と少女漫画に共通点? 4Kレストア版の字幕監修者&翻訳者が語る

字幕監修&翻訳者が『恐るべき子供たち』語る

 10月2日に公開されるジャン=ピエール・メルヴィル監督作『恐るべき子供たち 4Kレストア版』。原作の翻訳を担当し、本作の新たな日本語字幕の監修を担ったフランス文学者の中条省平と、本作の新たな英語字幕の翻訳を担当した字幕翻訳家の横井和子が本作について語った。

 『恐るべき子供たち』フランス公開70周年を記念して4Kレストア版で修復された本作は、1920年〜1950年代、パリで時代の寵児となったジャン・コクトーの原作をメルヴィル監督が映画化したもの。ある雪の日の夕方、雪合戦で怪我を負い自宅で療養することになったポールと、その姉エリザベートによる、死を孕んだ戯れと愛の世界を描き出す。

中条省平

 今回の字幕で苦労された点について、翻訳を担当した横井は「詩人の書いた小説の言葉をその詩人が関わって映画にしているのが今回のケースでしたが、詩人の言葉を扱うのがこんなに大変だと思いませんでした。コクトーの原作にある言葉や表現がそのまま映画に出てくるのを翻訳するのですが、字幕翻訳というのは、字数が限定されているので、要約するかバッサリと切るか言い換えるか、究極的に言えばどちらかの方法をとらなくてはいけないので、その程度が難しいのです」と語る。続けて、「今回は古い字幕や原作も参考にして、この作品をご存知の方が各登場人物のイメージを壊さないように気を遣いながら訳していきました」と今回の訳で具体的に行ったことを明かす。

 そんな横井との作業について、中条は「素晴らしいことに、横井さんは、注意すべき箇所、問題になりうる箇所の一覧表を作ってくださいました。ですから、その表に基づいて、直す必要があればお伝えするという進め方で、二人の考えの交換はうまくできたと思います」と振り返る。さらに、「私の字幕翻訳との関わりは、ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』の映画化作品で字幕の監修を頼まれたのが最初でした。その時、ベテランの字幕翻訳の方でも誤訳があるのだなと気が付きましたが、私自身も誤訳は犯しているわけです。そもそも、翻訳で誤訳がないということ自体ありえないですよね。字幕翻訳は短くしなくてはならないのがコツで、そのやり方は最終的に字幕翻訳家の決断にかかってきます。それを覆すような提言は監修の立場からはできません。第三者として見て気がついたところを指摘するにとどめます。私の知っている翻訳者の山田宏一さんの場合は、原文の文体を損なわないために、絶対に要約するのは嫌だと言う意見で、字幕職人の名匠として日本で最後の方でしょうね。横井さんと私は二人で柔軟にやっていきました。字幕というのは劇場公開での字幕から、レーザーディスク、DVD、ブルーレイの字幕と変わっていく中でどんどん文字数が減っていくわけですよね、小さい画面でも見えるように。その度に同じ作品でも字幕を訳し直しているのは大変な作業だと思います」と自身の経験を交えながら翻訳作業の難しさを語った。

横井和子

 横井も字幕翻訳の難しさを感じることがあるようで、「昔の字幕では時に文字数が多めのことがあったり、今の翻訳に比べると自由かな?と思うところがあったと思います。字幕翻訳者として辛いのは、抜けていることを指摘されることですが、文字数が限られているために入らないことがあり、全てを入れるのは無理なのです。中条先生のようなご理解ある監修のスタンスで提案を頂けたのはしてくださったのはありがたかったです」と中条との共同作業を述懐した。

 フランス本国では1950年に公開された『恐るべき子供たち』。本国での評価について、中条は以下のように語る。「本国ではあまりきちんと評価されていないようですね。コクトーとメルヴィルというまったく個性の異なる二人がつくった異色の映画というのが通り相場の評価ではないでしょうか。僕が知る限りでは、フランスでこの作品を正当に評価している研究は出ていないようです。つまり、フランス人がちゃんと分かっていないからこそ、日本人が再評価しなくてはいけないと思うのです。その再評価に、少女マンガ的な繊細な感性を持つ日本人はぴったりです」。

(左から)中条省平、横井和子

 横井は萩尾望都によって本作が漫画家されたことに言及し、「萩尾さんとコクトーの相性がすごく良いです。翻訳する上でも萩尾さんの作品は参考になりました」とコメント。それを受け中条は、「閉ざされた世界の中で姉弟が愛を全うするというのはギリシャ悲劇的な物語にも見えるのですが、『恐るべき子供たち』はそれよりもっと幼児性が色濃く出ていて、まさに少女漫画的な部分があるわけです。もちろんコクトーはホモセクシュアルですし、そういう女性性を意識して書き、メルヴィルも時にはその特色を強調しています。とくに姉弟の諍いの場面などに出てくる誇張やユーモアはきわめて少女漫画的です。萩尾望都さんにしても竹宮惠子さんにしても、いわゆる「寄宿舎もの」というジャンルが少女マンガにあるじゃないですか。『恐るべき子供たち』では、姉弟二人で寄宿舎ごっこをやっているところに、他所からの転校生たち(ジェラールやアガット)がやってきて寄宿舎の秩序を乱す、みたいな感覚があります。そこらあたりはフランスではなく、むしろ日本でよく理解される部分でしょう」と、本作と少女漫画の類似性に言及した。

 さらに中条は、「コクトーの詩の根本は、じつは俳句的な見立てにあります。堀口大学の訳したコクトーの有名な詩句『私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ』がどれだけに日本で愛唱されてきたかを考えれば、そのことは明らかです。短い言葉で面白さを出す見立ての巧さですね。見立てというのは、いわば言語による遊戯です。『恐るべき子供たち』の中にも遊戯という言葉がたくさん出てきます。人生というものは悲惨なものだから、遊戯によってしか救われない、という気持ちがコクトーの根本にあるのではないでしょうか。人生も文学も遊戯だと。遊戯からさらに進んで、コクトーは、すべては嘘であるという言い方もします。『僕は嘘つきだ。真実を告げる嘘つきだ』と言っています。大方のフランス人は、バルザックやゾラのように現実社会と戦う人間のドラマを真っ正面から描く文学者を偉いと思っているので、コクトーのような、ある意味で軽い人をちょっとばかにするところがあります。シャネルとも仲が良かったみたいなことで(笑)、上流かぶれのスノッブだといわれなき偏見も受けていたと思いますよ。コクトーについてのちゃんとした文学的研究はあまりにも少ないのです。同じフランス文学でも、バルザックやゾラの重厚とは対極の、軽妙さの化身。プルーストの長大さともぜんぜん違う世界。コクトーなら『プルースト、長すぎる』とでも言うところでしょうね(笑)」と、日本でのコクトー人気の高さにも触れた。

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■公開情報
『恐るべき子供たち 4Kレストア版』
10月2日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国公開
監督・脚本:ジャン=ピエール・メルヴィル
脚本:ジャン・コクトー、ジャン=ピエール・メルヴィル
出演:ニコール・ステファーヌ、エドゥアール・デルミット
撮影:アンリ・ドカエ
衣装デザイン:クリスチャン・ディオール
配給:リアリーライクフィルムズ、Cinemago
共同提供:Cinemaangel
1950年/105分/フランス/モノクロ/スタンダード4Kデジタルリマスター版/DCP・Blu-ray/日本語字幕:横井和子/監修:中条省平
(c)1950 Carole Weinkeller (all rights reserved) Restauration in 4K in 2020 / ReallyLikeFilms



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