『映画クレヨンしんちゃん』シリーズ“笑い”の変遷を辿る 最新作には笑う行為への批評性も

『映画クレしん』“笑い”の変遷辿る

宮迫の人気ネタから赤塚不二夫漫画のギャグまで

 劇場版には、公開当時に流行していたタイムリーなネタも登場する。『戦国大合戦』では、しんのすけが井尻に対し「未来でおこなわれている男同士の約束の儀式」として、股間付近から拳を突き上げる仕草を教えこむ。これは同作にゲスト声優で出演した元お笑いコンビ・雨上がり決死隊の宮迫博之が、『ワンナイR&R』(フジテレビ系)内のコントで演じていたキャラクター・轟さんの仕草「ギューン!」をモチーフにしている。

 『ユメミーワールド大突撃』には、ゲスト声優・とにかく明るい安村にちなんだ笑いが冒頭から登場。ある会社を舞台に、社長が会社員にパンツ一丁で土下座させ、パンツを脱ぐことも要求。そこへひろしが「頭は下げてもパンツは下げるんじゃない」と助け舟を出す。つまり、パンツをちゃんとはかせるのだ。でも中盤、悪夢のなかで安村の大群が、はいていない状態で「安心してください」「心配してください」と連呼しながらしんのすけらに襲いかかる。2015年の流行語大賞にも輝いた安村による、まさに時事的な笑いである。

 逆に『クレしん』には昔から親しまれている普遍的な笑いもふんだんに盛り込まれている。大人たちが堕落する『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)では、「会社に行け」と怒るしんのすけに、ひろしが「大人は会社に行かなきゃいけないって決まりはあるのか」と反論。元ネタとなっているのは、赤塚不二夫の漫画『天才バカボン』に出てくるブラックジョークだ。みさえ、ひろしが「シェー」を繰り出すが、これも同じく赤塚の『おそ松くん』の登場人物・イヤミの決めポーズ。ほかにも、ワンシーンだけ声優出演した小堺一機、関根勤が「お尻をギュ」「ケレル」という持ち芸を披露。林家三平の「どうもすいません」、ハナ肇の「あっと驚く為五郎」といった昭和生まれのギャグも描かれている。

 関根勤は『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~』(2018年)にもゲスト声優で出演。拳法の師匠に扮しており、敵に秘孔を突かれて「パンツー丸見え」としか話せなくなる。この言葉はフォークデュオ・あのねのねの曲『パンツ丸見え体操』(1979年)の歌詞から派生し、その後はアニメ『アラレちゃん』などでも使われるようになったもの。同作にはANZEN漫才も声優をつとめてり、みやぞんをモチーフにしたキャラクターが「ギター拳法」でしんのすけらの前に立ちはだかる。

ぺこぱの「人を傷つけない笑い」が『天カス学園』に及ぼしたもの

 最新作『花の天カス学園』では、しんのすけが「エリート」を「デニーロ」(俳優のロバート・デ・ニーロ)と言い間違える『クレしん』らしいダジャレにはじまり、某探偵作品をパロッたセリフをその後の展開の前フリに使うなど、いろんな形の笑いが繰り広げられる。『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(2014年)や『ユメミーワールド大突撃』などの高橋渉監督がメガホンを取っているとあって、今回もダークな世界とシニカルな目線を織り込みながら笑わせていく。

 ゲスト声優の人選もタイムリーだ。そのひとりであるフワちゃんは、天カス学園でユーチューバーをしている劣等生役だが、おなじみのハイテンションさと、ひたすらポジティブな様子でしんのすけたちにウザ絡みをする。もう一組のチョコレートプラネットは、『有吉の壁』(日本テレビ系)でみせた鬼襟の高峰と爆短ランの丹下ほどの極端なキャラではないものの、いつも一緒にいるヤンキーを演じ、後半では見せ場を作っている。

 あとこの『花の天カス学園』でも、やはり「いじり笑い」について考えさせられた。人にいじられて笑われること。人をいじって笑いをとること。人が誰かをいじったり、いじられたりしている場面を傍観的に笑うこと。いじられる張本人は果たしてそれを望んでいるのか、そうじゃないのか。それによって何が得られるのか。失われるものがあるのではないか。ぺこぱによる「人を傷つけない笑い」がお笑いの新しい価値観として植え付けられたが、『天カス』にはいじり構造とそこから生まれる「笑う」という行為への批評性が感じられるのだ。

 物語としてもかなり充実した内容の『花の天カス学園』。ただ最後に、同作を劇場鑑賞した際、鑑賞者の子どもたちが大爆笑していたシーンが「餅ついて(落ち着いて)、はー、ぺったんぺったん」という台詞だったことだけは書き記しておきたい。

■公開情報
『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』
全国東宝系にて公開中
原作:臼井儀人(らくだ社)/『月刊まんがタウン』(双葉社)連載中/テレビ朝日系列で放送中
監督:高橋渉
脚本:うえのきみこ 
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみほか
特別出演:仲里依紗、フワちゃん、チョコレートプラネット
主題歌:マカロニえんぴつ「はしりがき」 (TOY’S FACTORY)
配給:東宝
製作:シンエイ動画・テレビ朝日・ADKエモーションズ・双葉社
(c)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2021
公式サイト:shinchan-movie.com

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