『映画クレヨンしんちゃん』の可能性を拡張!? 『ラクガキングダム』が描く初期衝動

『ラクガキングダム』が描く初期衝動

 2020年のアニメ映画は、毎年定番の作品が注目を集めるだろう……などと、すでに2020年も残り数カ月を切った段階で話をしたところで、後出しのようではあるだろうか。しかし『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の予告を観ただけでも、今年の作品は一味違うぞ! と思ったファンはたくさんいるだろう。そしてその予感は『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ4人の勇者』(以下、ラクガキングダム)にもあったのではないだろうか。今回は『ラクガキングダム』を通してクレヨンしんちゃん映画の魅力と、今作の挑戦について迫っていきたい。

 近年の『映画クレヨンしんちゃん』は、高橋渉と橋本昌和が交互に監督を勤めていくスタイルが定番となっていた。時には互いの過去作に言及するような描写を挟みながらも、新たなしんちゃん映画像を示し続けることで切磋琢磨し、その結果興行収入が20億円を越える作品も出てくるなど、興業・批評のどちらの面からも充実した作品が生まれ続けてきていた。しかし今作ではそのサイクルから外れ、京極尚彦が新たに監督に起用されている。

 毎年お馴染みのキャラクターが活躍するアニメ映画の中でも、『クレヨンしんちゃん』は自由度の高さにおいて稀有な存在だ。もちろんキャラクター像を壊すような描写は許されないだろうが、子ども向けアニメ映画という枠にとらわれない、自由な描き方やテーマが許されているシリーズでもある。例えば『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』は、ともすれば大人向けに作られすぎているのではないか? という思いもよぎるが、それがしんちゃん映画に対する偏見などを打破し、多くの人に愛される映画となっている。その自由度の高さが人気の要因でもあり、基本はコメディタッチながらもホラー、アクション、冒険などの様々なジャンルの作品が生まれているのも特徴の1つだろう。

 『ラクガキングダム』でもその自由度の高さは特に強く感じた。京極尚彦監督は『ラブライブ!』などのアイドルアニメの監督や演出経験も多いが、今作でもその魅力が発揮されている。特に春日部の保育園などを中心に、多くの子どもたちに書いてもらった落書きたちが織りなすミュージカルは圧巻だ。子どもたちは自分の書いた絵が動き出すという、アニメの持つ面白さを体験してくれるだろう。京極監督の強みと、明らかにいつものキャラクターとは絵柄が異なる落書きが動き出しても違和感のない、『クレヨンしんちゃん』というフォーマットが一致した、見事な試みだった。

 監督交代も今作の大きな変化の1つだが、特に着目するのがメインビジュアルだ。落書きというテーマもさることながら、絵柄やキャラクターデザインが奔放で自由な印象を受ける。ぶりぶりざえもんなどの既存の人気キャラクター以外でも、ブリーフ、ニセななこなどは、まさに幼稚園児の落書きらしく、独自の感性で作られていることが窺える。初期の『クレヨンしんちゃん』シリーズは湯浅政明などのアニメーターが織りなす自由な作画が大きな話題を呼んだが、今作はその原点に回帰するかのような画風だ。

 この自由なアニメ作画、落書きという点が今作のキーポイントだろう。作中でも「無理やり描かせた落書きでは意味がない」と語るシーンがあるが、絵を描くことの初期衝動として落書きに着目している。自由に、楽しく絵を描き、それが画面いっぱいに動き回るさまは、上手い下手を超えたアニメの面白さを再確認することができる。

 この点は主題歌であるレキシの「ギガアイシテル」のPVや歌詞にも現れている。「キミのその落書きも いつか誰かの宝物」という歌詞や、鳥獣戯画の成り立ちを思わせる物語、水彩画タッチの絵柄、そしてタイトルで戯画とギガを掛け合わせる言葉遊びなど、初期衝動の自由で楽しく絵や物語を作る喜びを見事に表現している。単なるタイアップを超えて、今作の魅力を何倍にも引き上げるアニソンとして見事な楽曲として、作品と一緒に楽しみたいPVだ。

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