『TOKYO MER』が持つ医療ドラマの特質 ヒーローの失墜にどう立ち向かう?
国益と人命、優先すべきはどちらか? 『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)第9話は大使館が舞台になった。消火設備の点検中、消火用の二酸化炭素が噴出し、作業員に二酸化炭素中毒のおそれがあると通報が入った。大使館や在外公館は条約による外交特権で、敷地内に入るためには大使の許可が必要になる。入ろうとする喜多見(鈴木亮平)を音羽(賀来賢人)は「勝手に入れば国際問題になります」と押しとどめる。不在の大使の許可が得られない中、赤塚都知事(石田ゆり子)が病床から救助の決定を下す。
医療ドラマとしての本作には3つの特色がある。空気に含まれる二酸化炭素は、濃度が3%で頭痛、めまい、吐き気が起こり、7%で意識を失い、20%を超えると中枢神経が損傷し死に至る。これまでの各話では、自然災害や事故、建物の損壊など目に見える脅威が立ちはだかったが、第9話では目に見えない気体を相手に迫真の演技が繰り広げられた。酸素ボンベやガスマスクを装着し、倒れている中毒患者にトリアージと応急処置を行う一連の動作は、本作を特徴づける息つく間もないスピードと一刻を争う緊迫感に満ちていた。
2点目として、生命の尊厳という大文字のテーマを正面から扱っていることが挙げられる。そのことは各話のストーリーとTOKYO MERのミッションである「死者ゼロ」を通じて端的に表現されているのだが、倫理的で堅いテーマを大上段から説くのでなく、ほとばしる熱量とMERメンバーの絆によって表現する点が巧みだ。命を救うのがヒーローというメッセージを通して、コロナ禍にあってごく自然な形で命の尊さを伝えている。
第9話では、喜多見とスピリットを共有するレスキュー隊隊長の千住(要潤)が、大使館の地下に取り残されながら決死の救出活動を行った。災害現場で死の淵にある命を救うことは、同時に自らの命を死の危険にさらすことを意味する。危機管理対策室長の駒場(橋本さとし)が「自分の命を優先させたらレスキューじゃないんだよ!」と叫んだとおりだ。ヒーローマインドを体現する鈴木と要の演技には、わかっていても引き込まれる熱量があった。