『青天を衝け』がこれまでの“幕末もの”と異なる理由 総集編を機に前半戦を振り返る
そう考えると、『青天を衝け』というタイトルがいよいよ明示された第7回「青天の栄一」の終盤における栄一のモノローグ――「私は、青天を衝くような勢いで、白雲を突き抜けるような勢いで進む」は、ひとつ象徴的な回だったのかもしれない。というのも、そのモノローグは、司馬遼太郎の代表作のひとつであり、NHKのスペシャルドラマとして2009年から2011年にかけて3部作として放送された『坂の上の雲』を、どこか意識したものであるようにも思えてくるから(実際は、栄一が19歳の頃に詠んだ漢詩がもとになっている)。列強諸国に肩を並べるために、半ば強引な形であっても、有無を言わさず国力(さらには軍事力)を増強させていくのではなく、むしろ市井に生きる人々の暮らしを豊かにするため、最終的には公の立場ではなく、あくまでも民の立場から、近代日本を支えていくこと。渋沢栄一とは、「論語」(倫理)と「算盤」(経済)を両手に持ちながら、それを自ら体現していった人物なのだ。
そこには、原作のないオリジナル作品である本作の脚本を担当する大森美香の狙いも大きいのだろう。かつて、明治を代表する女性実業家のひとりである広岡浅子をモデルに、連続テレビ小説『あさが来た』(2015‐16年)を書き上げた大森美香。非常に珍しいことではあるけれど、『あさが来た』で五代友厚役を好演したディーン・フジオカは、本作においても、同じ「五代役」として既に登場済みなのである。やがて「東の渋沢」「西の五代」と称されるようになる実業家・五代友厚。というか、思い出すに、『あさが来た』の主人公・あさは、後年、女学校の設立に尽力する際、渋沢栄一に協力を求めていたではないか(『あさが来た』では、三宅裕司が渋沢栄一を演じていた)。となると、『あさが来た』で主人公を演じていた波瑠が、サプライズ登場することなども、ひょっとするとあるのだろうか。
さらに言うならば、個人的には、栄一同様「最後の幕臣」のひとりであり、維新後は栄一とはまた違う形で、慶喜の名誉回復に尽力した勝海舟の姿が、今のところ見られないのが少々残念ではあるのだけれど、やはり勝の登場はないのだろうか。いずれにせよ、そろそろ実年齢(27歳)を超えて、青年期から壮年期、そして老年期(渋沢栄一は、昭和6年……実に満91歳まで生きるのだ)を演じることになるであろう主演の吉沢亮の芝居もろとも、今後の展開に注目していきたい。「草莽の志士」から転じて「幕臣」となった栄一が、自らの意志によって主体的な行動に打って出ていくのは、いよいよこれからなのだから。
■放送情報
大河ドラマ『青天を衝け』総集編
NHK総合にて、8月8日(日)午前0:00~放送(7日(土)深夜)放送
出演:吉沢亮、小林薫、和久井映見、村川絵梨、藤野涼子、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、岡田健史、橋本愛、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草なぎ剛、堤真一、木村佳乃、平田満、玉木宏ほか
作:大森美香
制作統括:菓子浩、福岡利武
演出:黒崎博、村橋直樹、渡辺哲也、田中健二
音楽:佐藤直紀
プロデューサー:板垣麻衣子
広報プロデューサー:藤原敬久
写真提供=NHK