卓球アニメ『ピンポン』が突きつける“才能の壁” 全ての選手に語るべき物語がある
ではストーリーの見せ方はどうだったか? 前述したように物語の流れは同じなのだが、物語から受ける印象はだいぶ異なる。
ペコやスマイルの内面に同調して描かれた本作には海の底に沈んでから空高く飛翔するような深さと高さがあるが、周りが見えていないという世界の狭さがある。
卓球に人生を捧げるあまり視野狭窄になっていく選手たちの内面と同調するかのような閉塞感が鬼気迫る迫力を漫画に与えているため全否定はできないが、これは作品が抱える弱点だ。
対してアニメ版では選手たちの戦いの外側にいる人々の群像劇としての要素がより強まっている。一部の天才だけではなく、その周辺にいる平凡な選手たちや彼らを取り巻く家族や恋人の描写を深めることで「卓球だけが全てではない」という人生観が強調されているのだ。
中でも最大の違いは、風間百合枝というオリジナルキャラクターの存在だろう。ドラゴンの従姉の百合枝は、ストイックに卓球に邁進する『ピンポン』の世界においてもっとも異物感のある女性だ。そんな彼女が違和感として残り続け、卓球選手たちの物語と同時進行で最終的に意外な場所に辿りつくことが、作品世界に大きな広がりを与えていた。
漫画同様、スポーツの残酷さを描きながらも、アニメ版には優しい空気が漂っており、どの登場人物にも何らかの救いが用意されている。
勝った選手にも負けた選手にも、そして選手たちの取り巻く全ての人々に語るべき物語はあるのだと『ピンポン』は教えてくれる。
オリンピックで賑わう暑い夏だからこそ見返したい作品だ。
■発売情報
『ピンポン STANDARD BOX』
発売中
監督:湯浅政明
出演:片山福十郎、内山昂輝
キャラクターデザイン:伊東伸高
音楽:牛尾憲輔
色彩設計:辻田邦夫
美術監督:Aymeric Kevin
撮影監督:中村俊介
編集:木村佳史子
音響監督:木村絵理子
制作:タツノコプロ
販売元:アニプレックス
原作:松本大洋(小学館 ビッグスピリッツコミックス刊)
公式HP:http://www.pingpong-anime.tv/
(c)松本大洋/小学館
(c)松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」製作委員会