『僕らのままで』『クワイエット・プレイス』 子供たちの物語が発した“大人の責任”

『僕らのままで』は今を生きる子供たちの物語

 同じ頃、『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』を観た。公開延期から1年、ようやく新作ハリウッド映画の登場である。既に全米では大ヒットを記録しており、コロナの終息とアメリカ映画の復活を強く印象づけた。

 2018年の第1作目公開当時、監督兼主演のジョン・クランシンスキーはインタビューで「本作は困難な時代に子育てをする恐怖のメタファー」と話している。超聴覚を持つ怪物によって命を脅かされ、会話というコミュニケーションを断ち切られた世界で子供を産み、育てることはできるのか? それは自ずと分断と対立に揺れるアメリカの姿に重なり、これが実生活でも夫婦である妻役エミリー・ブラントから名演を引き出した事は大いに想像できる。言葉を奪われたアボット家の唯一のコミュニケーション手段は、ろう者の長女を中心にした手話であった。


 『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は前作の直後から物語が始まる。大黒柱である父と我が家を失ったアボット一家は助けを求めて人里を目指す。しかし外界は怪物のみならず、恐怖によって理性を失った人間達による無法の地だった。

 前作から続投する子役ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプの成長は著しく、クラシンスキーは親が思うよりも遥かに成長し、自らの足で立とうとする子供たちの物語により重きを置いている。そんな彼らを支えるのがキリアン・マーフィー演じるかつての隣人、エメットだ。

 トランプ時代の断絶を描いた『クワイエット・プレイス』が、今度はコロナショックによって多くの死者を出し、他者との繋がりを絶たれた現在のアメリカを映し出す。怪物の襲来により妻子を失い、絶望し、心を閉ざしたエメットは成り行きからアボット家を助けることになる。子供たちを通じて今再び世界と繋がろうとする彼の“ある動作”を見逃してはならない。本作は僕ら大人が子供たちに何を託すかという問いかけであり、エメットの再生の物語でもあるのだ。キリアン・マーフィーは近年、役に恵まれない印象だったが、彼のミステリアスな個性と年齢を役柄に反映させたクラシンスキーの演出、キャスティングは実に冴えていた。

 パンデミックによって犠牲を強いられているのは人生に1度しかない体験をいくつも奪われている子供たちである。稚拙な開会式を揶揄し、運営団体の不祥事を叩くだけでは、「子供たちに夢と希望を与える」という言葉の醜悪さを見落としてしまうだろう。自身と世界の距離を知ることに、現在(いま)の映画を見る意味がある。『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』は1年の公開延期を経て、奇しくもその切実さを強めていた。

■配信情報
『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』(全8話)
Amazon Prime Videoチャンネル 「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて、全話配信中
製作総指揮・監督・脚本:ルカ・グァダニーノ
出演:ジャック・ディラン・グレイザー、ジョーダン・クリスティン・シモン、
クロエ・セヴィニー
Photo by Yannis Drakoulidis (c)2020 Wildside Srl – Sky Italia – Small Forward Productions
公式サイト:https://www.star-ch.jp/drama/wearewhoweare//sid=1/p=m/

■公開情報
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』
監督・脚本・製作・出演:ジョン・クラシンスキー
製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラ-
出演:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィー、ジャイモン・フンスー
配給:東和ピクチャーズ
(c)2021 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:https://quietplace.jp/
公式Twitter:@Quietplace_JP

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