『いだてん』は“終わり損ねた未完の大作”? 現実の五輪で迎える本当の最終回
ただ、筆者は『いだてん』をドラマとして高く評価するが、どこか「終わり損ねた未完の大作」という印象を拭いきれない。
『いだてん』は、1964年の東京オリンピックが開催されて幕を閉じるのだが、五輪開催をめぐる内幕劇と並行する形で、語り部の古今亭志ん生(ビートたけし)と、本作の裏主人公と言える弟子の五りん(神木隆之介)の物語が展開される。複数の物語を同時に描くことで戦後復興の象徴としての東京五輪を相対化させたのは『いだてん』らしいアプローチだったが、一方でどこかあっけなく感じ「これで終わり?」と思ってしまった。
こう感じたのは、ドラマが終わった後も、東京五輪を控えた私たちの現実が続いていたことが大きいだろう。だから本作の真意は、2020年の東京五輪が終わった後でないと理解できないのだろうと思っていた。しかし、2020年に新型コロナウィルスが世界的に流行したことで五輪開催は1年延期となり、開催直前となった7月後半に入っても、五輪関連のゴタゴタは続いている。
様々なトラブルが起きる度に「『いだてん』みたいだ」と感じた1年だったが、やっと本当の最終回を(現実の五輪で)迎えられるというのが、正直な気持ちである。
東京五輪を終えた時、私たちは何を思うのだろうか。答えはすでに『いだてん』の中にあるような気もするが、きちんと見届けたいと思う。
■放送情報
『いだてん〜東京オリムピック噺〜総集編』
NHKプラスにて7月29日(木)まで見逃し配信中
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺:ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花、竹野内豊、麻生久美子、桐谷健太、森山未來、神木隆之介、橋本愛、夏帆、小泉今日子、松尾スズキ、星野源、松坂桃李、安藤サクラ、松重豊、浅野忠信、薬師丸ひろ子、大竹しのぶ、役所広司ほか
写真提供=NHK