内野聖陽、安達奈緒子脚本を体現する優しさ 『おかえりモネ』浅野忠信と見せた大人の友情

内野聖陽、安達奈緒子脚本を体現する優しさ

 3度目の気象予報士試験に挑戦する百音は、2016年の正月休みを実家で勉強に励もうと島に戻ってきた。成人式には出席しないという百音の言葉を聞いて父の耕治(内野聖陽)は落胆するが、愛情ふれる父親の言動は何かと空回りしがちで、長女の百音よりも次女の未知(蒔田彩珠)には、よく痛いところを突かれている。とはいえ、親子喧嘩をしてもすぐに仲直りできる永浦家。祖母が民宿を営んでいたこともあり、人が集まりやすい温かい空気が流れている。かつて耕治の幼なじみの新次(浅野忠信)やその妻で耕治の初恋の人でもあった美波(坂井真紀)、2人の息子で百音の同級生の亮(永瀬廉)もよく永浦家に集まっていた。

 『おかえりモネ』(NHK総合)の8週「それでも海は」では、亮の母親であり、新次の妻の美波の存在や耕治と新次の関係が拗れてしまった背景が明らかになった。耕治と新次といえば、第18話でも偶然街中で会った際に居酒屋のカウンターで2人並んで飲んだときにぎくしゃくした会話を交わしていた。早々に席を立ち、雨の中を帰ろうとする新次に対して耕治は「傘、使えよ」と自分の鞄からすっと折りたたみ傘を差し出したのだが、「準備がいいな、おめえは。つうか、昔からそつがねえっつうかよ。俺の船ん時もそうだよ。おめえの判断正しかったよな」と言い、新次は傘を受け取ろうとはしなかった。

 2011年2月に新次は1億2800万円もの借金をして19トンの船を手に入れ、華々しいお披露目式を行ったが、その1カ月後の東日本大震災によって新次の生活は一変。そして、約半年後に完璧な返済計画を立てた耕治は、自分の務める銀行で補助金制度を使って新次に船を買うように勧めたのだった。

 「やめとけ、おまえの立場がまずくなる」と新次はためらったが、「きっちり返済させられる計画を立てたから審査に通すんだよ。これなら通る。俺が通す。船持てよ、もう一度。おまえには船が似合うよ」と、耕治の好意により新次が前に進めそうな展開が期待できたのだが、隠していた借金が銀行の調査により発覚。銀行の廊下での2人のやりとり、その佇まいと個性のぶつかり合い、セリフの重さが朝ドラという枠を越え、骨太映画のワンシーンのようだった。

 「俺がいっぺん船に乗れば、1000万なんか簡単に稼げる」という漁師のプライドで生きる新次は、同時に「自分の船でなきゃ意味がねえんだよ」「自分の船でなきゃ何にも埋められねえんだよ」と自分の船にこだわる。耕治はせめて住む場所ぐらい提供できないかと考えるが、龍己(藤竜也)に「おめえは漁師ってものが分かってねえな。意地で生きてんだよ、漁師はそこまで潰すな」と言われ、自分には何もできないと苦悩する。

 あの日、2011年3月11日に百音の高校受験に付き添い、耕治も島を離れていた。百音が無力感と罪悪感に苦しんだように、耕治もまた同じように心の深い部分で悩んでいたのだった。

 百音は気象予報士の朝岡(西島秀俊)の「何もできなかったと思っているのは、あなただけではありません」という言葉を思い出す。朝岡は「何も出来なかったと思う人は、次はきっと何かできるようになりたいと強く思うでしょ? その思いが私たちを動かすエンジンです」とも言っていた。

 内野聖陽と西島秀俊が一緒のシーンに登場することはまだないが、2人が作品の中でシンクロすると、どうしてもドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京ほか)を思い起こさずにはいられない。原作漫画ファンにも愛され、続編だけでなく、11月3日には劇場版『きのう何食べた?』が公開になるほど、それぞれにキャラクターの魅力を最大限に生かした素晴らしい演技が評価されている。とくに内野の場合、しぐさはもちろん、体つきや醸し出す雰囲気も柔らかく、ケンジの繊細さや乙女の部分をそのまま体現しているところに多くのファンが驚かされた。

  『きのう何食べた?』『おかえりモネ』2作品とも脚本を手掛けるのは安達奈緒子。内野が演じるキャラクターは2作品でまったくの別人だが、共通しているのは他者を思いやる優しさ。安達が紡ぐセリフと内野の相性の良さを改めて感じた。

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