『転生したらスライムだった件』第2期も好調 異色な主人公・リムルの魅力に迫る

 なぜこのような作風になったかといえば、いわば「人魔共存・共栄」という理想を掲げて進み続けるリムルという存在がいるからだ。

 放送開始した第2期1部において、リムルは掲げた理想の厳しさを思い知ることになり、さらなる飛躍のために魔王へと格上げし、より強い態度と姿勢をもったうえで魔王クレイマンと西方聖教会へと立ち向かうことになる。これがアニメ2期2部第1話、序章となるのだ。

 リムルという存在はジュラ・テンペスト連邦国に属する仲間からは強く優しい存在として目に映ることが多く、温和なリムルという存在に心酔し、それが故に大きな失態を侵してしまうことにもなる、それだけ彼の影響力が強いことが分かるだろう。

 外伝となる『転スラ日記』では特に、少年のような無邪気さや笑顔にふるまうリムルの姿が描かれている。すぐに調子に乗っては他の魔物らと遊んでしまい、叱責されることもチラホラあり、非常に可愛いらしく映るはずだ。

 加えて本編では、窮地の場面になると冷静を失ってしまったり、序盤では焦って行動して後悔するしたり、何度もミスを繰り返したりもする。温和で、可愛げがあり、焦ってトチってしまう、表情豊かでなんとも人間味溢れた人物像。カワイイビジュアルと上記の性格も相まって、どこか憎めない人懐っこい存在として描かれるのだ。

 そんなリムルを演じるのは、女性声優の岡咲美保だ。高校時代の2014年11月に『NHKのど自慢』に出場、ゲスト出演していた水樹奈々本人を前にし、水樹奈々の「DISCOTHEQUE」を歌い上げて見事優勝。その場で「声優になります!」と決意表明した彼女は、2021年9月15日に1stシングル『ハピネス』でソロデビューが決定、水樹奈々と同じキングレコードに所属するということもあり、大きく注目を集めている声優のひとりだ。

 リムルを演じるうえで押さえておくべき特徴というと、リムルの身体についてだろう。リムルが人間体に変身している際には、外見は女性寄りで幼げにもみえるが、精神性は前世のままなので男性的、生物学的には男女どちらでもない中性で無性別、スライムを主人公としたフィクション上の面白さが先立っているとはいえ、まるで生物や動物という既存の規範からは抜け出た存在として描かれているのだ。

 日本アニメでは、少年の声を女性声優が務めることが多くみられてきた。変声期前の少年の高い声を演じることで、少年性という神秘性をアニメーションのなかに取り込むような効果が生まれる。

【公式】『転生したらスライムだった件 第2期』第25話 「リムルの忙しい日々」

 リムルの場合、精神や口調は男性寄り、外見は女性寄り、生物としては中性と、どのように発せられれば良いのかとても掴みづらい。男性とも女性とも感じさせない絶妙なトーンや声色、それでいて温和な性格で天真爛漫としたリムルのイメージを演じるには、当時新人であった岡咲の明るい声色や初々しさはピタリとハマったのだ。リムルを中心に置いたこの作品の性質上、彼女の声が今作が持つ明るいムードを生みだしているといっても過言ではないのだ。

 人懐っこい性格のリムルを非常にピュアな存在のように見受けることができるかもしれない。そんな彼が平和を求め、政治、戦争、差別といったダーティな部分を通過していく、無垢なイメージを傷つけるかのようにストーリーが進んでいく。

 誰にでも優しさをみせ、ピュアかつイノセントな存在として描かれるリムルが、ダーティな世界のなかでいかなる決断を下し、どのようなファンタジーな展開をし、リムルがどのようなキャラクターへと変化していくのか。今後が非常に楽しみである。

■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。Twitter

■ 放送情報
『転生したらスライムだった件 第2期』第2部(ほか)
TOKYO MXほかにて、毎週火曜23:00~放送中
キャスト:岡咲美保、豊口めぐみ、前野智昭、古川慎、千本木彩花、M・A・O、江口拓也、大塚芳忠、山本兼平、泊明日菜、小林親弘、山口太郎、福島潤、田中理恵、日高里菜、春野杏、櫻井孝宏、子安武人、石田彰
原作:川上泰樹、伏瀬、みっつばー『転生したらスライムだった件』(講談社『月刊少年シリウス』連載)
監督:中山敦史
シリーズ構成:筆安一幸
キャラクターデザイン:江畑諒真
モンスターデザイン:岸田隆宏
美術監督:佐藤歩
美術設定:藤瀬智康、佐藤正浩
色彩設計:斉藤麻記
撮影監督:佐藤洋
グラフィックデザイナー:生原雄次
編集:神宮司由美
音響監督:明田川仁
音楽:Elements Garden
アニメーション制作:エイトビット
(c)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会

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