MCUのドラマシリーズに新たな驚き 『ロキ』にみるマーベル・スタジオの革新性

『ロキ』にみるマーベル・スタジオの革新性

 マーベル・スタジオによるドラマシリーズの第3弾としてリリースされた『ロキ』は、その作品群に新たな驚きを加える作品だ。『マイティ・ソー』シリーズや『アベンジャーズ』(2012年)などの作品で、悪役となったりトリックスター的な役割として、観客や劇中のヒーローたちを翻弄してきた、トム・ヒドルストン演じるキャラクター“ロキ”を主人公にしているのである。

 第1弾『ワンダヴィジョン』ではヒーロー作品をシチュエーションコメディとして表現し、第2弾『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、『キャプテン・アメリカ』シリーズの堂々たるメインストーリーと、大規模なアクションが描かれたように、もはや我々はマーベル・スタジオによって連発されるドラマシリーズの、想像の枠を越えた革新性に、ようやく追いついたところだ。しかし、この『ロキ』は、またしても我々を引き離す、驚きに満ちた作品となった。先日配信された第3話では、長回しによる悪魔のような未曾有の大災害シーンが展開するなど、中盤ですでにクライマックスかのようなスペクタクルが展開中である。

 ロキが映画シリーズで最後に姿を見せたのは、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)のワンシーンだった。アベンジャーズが過去の時間に干渉したことをきっかけに、逮捕されるはずの2012年のニューヨークにいたロキが、隙を見て逃亡することになったのである。これによって、本来の運命とは異なる方向へと進む“別のロキ”が生まれてしまった。この展開によって、ロキが今後、シリーズにおいて何らかのかたちで再登場するだろうと見られていたが、その答えがまさに本作だったということになる。

 『ロキ』の物語は、インフィニティ・ストーンの力によって窮地を脱したはずのロキが、あっさりと捕獲されることで動き出す。彼を捕まえたのは本作で初めて登場する、時間を統制する役割を持った機関「TVA」の部隊であった。TVAは、枝分かれしてしまった時間を可能な限り断ち切って、「神聖時間軸」と呼ばれる、本来の時間の流れを守ることによって、宇宙の無秩序化を防ぐことを目的にしているのだという。ロキは、本来の時間の流れとは異なる世界を生み出し、宇宙を混乱させる“変異体”として、罪に問われることになるのだ。

 疑問に思うのは、裁判に被告として出廷させられたロキが「アベンジャーズが悪い」と主張したように、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のなかで、時間に干渉することで運命を変えようとしたのは、そもそもアベンジャーズではなかったのかという点だ。宇宙を救うためとはいえ、アベンジャーズが行ったことは、神聖時間軸への干渉にあたるのではないか。

 ちなみに、アベンジャーズの作戦については、以下の記事で詳細にまとめているので、振り返りたい方は参考にしてもらいたい(参考:【ネタバレあり】『エンドゲーム』に残された謎 アベンジャーズの作戦を科学的視点から読み解く)。

 TVAの言い分によると、アベンジャーズが時間を遡ったことは、正しい運命に数えられるのだという。時間と空間を移動する方法は、アントマンことスコット・ラングが発見し、アイアンマンことトニー・スタークが理論化するなど、ヒーローたちが自力で完成させたことは確かなのだ。これはあくまでアベンジャーズの発明に過ぎず、それを利用することは文明の発展が辿る必然的な道として看過していいということなのだろう。もしかしたら、この発明は時間を行き来してタイムパトロールを行うTVAの成立にかかわっている可能性もある。

 しかし、だとすればロキがアベンジャーズの行動によって隙を見出して逃亡したという事実もまた、自然な運命といえるのではないのか。この疑問は、おそらくドラマの終盤に解決するのかもしれない。TVAの活動が本当に宇宙の安定に貢献しているとして、ロキが逃亡したことが巡り巡って最終的に秩序の破壊を止めることに繋がるのならば、ロキの選択は正しかったことになるはずだからだ。

 この答え合わせは保留しておくとして、ロキはその後、TVAの捜査官“メビウス”と出会い、彼の捜査に協力することで、“リセット”の刑から逃れることになる。メビウスのねらいは、TVAの脅威となっているという、本作の主人公であるロキではない“別の変異体のロキ”を逮捕すること。変異体となったロキは一人ではなかったのである。メビウスはロキを捜査に加えることで、ロキに迫るヒントを得ようとしているのだ。

 メビウスを演じているのは、コメディー映画を中心に活躍する俳優オーウェン・ウィルソン。サーファー風の長いブロンドヘアがトレードマークのウィルソンだが、ここでの彼は、白髪のショートヘアにスーツという、より貫禄ある捜査官らしい風貌にチェンジしている。ここでコメディー演技の得意なウィルソンが起用されているのは、マーベル・スタジオ映画でも最もユニークなキャラクターであるロキと彼を渡り合わせ、バディを組ませることで、その魅力を十分に引き出すためだろう。

 ロキと付き合っていくには、ことあるごとに面倒くさいやり取りを経ねばならない。ロキとメビウスの会話のなかで、世界で起こったこれまでの様々な未解決事件にロキが関与していたことも、ユーモアとともに明らかになる。それを念頭に入れると、やはりこんな存在を自由にさせていたら、時間軸がめちゃくちゃになってしまうというTVAの心配も、確かに分からないでもない。

 メビウスは何度も出し抜かれそうになりながらも、なんとかロキを有効活用しようとする。北欧神話の“悪戯(いたずら)の神”であり、裏切りのトリックスターであるロキの詐欺師的で気まぐれな行動を押し留めつつ、的確な指摘をすることで視聴者を笑わせ、行動の意味を納得させる存在として、メビウスは本作になくてはならないキャラクターとなっている。



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