渡辺歩監督が見つめた“明石家さんまプロデューサー” 『漁港の肉子ちゃん』制作秘話を語る
明石家さんまが企画・プロデュースする劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』が現在公開中だ。本作は、第152回直木賞を受賞した西加奈子の同名小説をアニメーション映画化したハートフルコメディ。漁港の船に住む共通点なしの母娘・肉子ちゃんとキクコの秘密がつなぐ奇跡を描く。
明石家さんまが劇場公開されるアニメーション映画を初プロデュースすることが大きな話題ともなった本作。監督を務めたのは、前作『海獣の子供』も高く評価された渡辺歩。『海獣の子供』からほとんどメインスタッフを引き継いで作られた本作について、渡辺監督に語ってもらった。
意識したのは「昭和50年代のテレビ漫画のようなテイスト」
ーー前作『海獣の子供』から、メインスタッフもほとんど引き継いだ作品ですね。
渡辺歩(以下、渡辺):ちょうど『海獣の子供』が終わったタイミングだったので、移行しやすかったんです。ランニング的には少し重なっているんですが、準備期間を経ていよいよというときに、『海獣の子供』の作業が終了したので。僕個人としては可能ならば同じ座組みでできればいいなという思いがありました。特に、美術監督の木村(真二)さんとキャラクターデザイン・総作画監督の小西(賢一)さんに関しては、そのままお願いできたらいいなと思っていました。
ーー同じ座組みを引き継ぐということでは、制作のアウトラインを共有するといったコミュニケーション面でもメリットが多そうです。
渡辺:おっしゃるとおりで、説明が入らないからOKというよりは、むしろ逆ですよね。同じ座組みで全然違うものを作るからこそ変化を感じてもらいやすい。ゼロから始めるよりは明らかに違います。心持ちとしては、『海獣の子供』よりタイトなスケジュールの中、タイトを理由にしないクオリティのものを作りたいということを強調していました。
ーー今回の『漁港の肉子ちゃん』は西加奈子さんの小説が原作ですが、小説を映画化する上で、ご自身の中で考えていたことはありますか?
渡辺:小説は漫画よりもビジュアルの自由度が高いので、読者がどういうビジュアルを持っているかを想像するのが難しい。完全一致を導き出すのは当然無理なので、自分の読後感を大事にしなければいけない気はしていました。舞台は宮城県の女川というところなんですが、すでに震災後で、ロケハンにいっても景色が違って見えるような気がしまして、どこにもない漁港を作ろうという不思議な覚悟がありました。肉子ちゃんに関しても、制作の最初から、彼女だけはファンタジーみたいな存在として生み出そうと発想していきました。
ーー肉子ちゃんのビジュアルは、すごく動きの楽しさがあるデザインに仕上がっていますよね。
渡辺:一言小西さんに言ったのは、芝居で見せる「真っ当なアニメを作ろう」ということ。なるべくシンプルなほうが動かしやすく伝わりやすいのかなと思ったんです。特に肉子に関しては、自分の中では昭和50年代のテレビ漫画のようなテイストを入れようと。それによって、久しくアニメから離れていた人にも親近感を持ってもらうと同時に、アニメの持つ大らかさの再認識を促したい。冒頭のイントロダクションも、結果的には某作品のオマージュのようになっていますが、どちらかというと、肉子ちゃんの存在をイメージしてもらいやすくするために、あえて入れている部分だったりするので。肉子ちゃんだけは浮き世離れしていて、この人を中心におもしろくおかしく展開していきすよと。逆にそこから行き着くと、キクコたちはいわゆる一般的なアニメーションの絵でいいんだなという気付きもありました。
ーー違う雰囲気のキャラクターが同じ絵に共存しているのがある意味新鮮でした。
渡辺:外すとえらいことになると思いますけどね(笑)。描いていくうちに、小西さんの力がとても大きくて、自分の意図を汲んでバランスのいい形にしてくれていますよね。線の数やフォルムはシンプルなんですけど、そういうキャラクターがしっかりと芝居をしている。「アニメーションにおけるリアリティの再提言」という、そんなチャレンジングなところが多分にあります。結果的にキャラクターの造形がいろいろなものを解放してくれているような気がします。