鈴木浩介、中村倫也、伊武雅刀は“その後のマクベス”? 『コントが始まる』大人たちの優しさ

『コントが始まる』マクベスに必要だった大人

 マクベスを陰ながら見守り、支えていた大人といえば、マネージャーの楠木実籾(中村倫也)だ。偶然出会ったマクベスを事務所に所属させると、そのままマネージャーに就任。ネタ合わせにも積極的に参加し、時には朝まで付き合うこともあった。地方営業には同行しなかったが、その間にも単独ライブが実現できるように粘り強く交渉したり、彼らがオーディションを受けられるように頭を下げて回っていたりした。まさに「4人目のマクベス」である。

 しかし、売れない時期が長くなると、メンバーとの間に距離ができていく。それでもマクベスを見放すことなく、解散を報告されたときは慰留していた。だが、彼らの決心が固いことを知るとそれを尊重し、最後の単独ライブに再び深く関わっていく。

 楠木はつむぎの人生にも深く関わることになる。マネージャー職の面接にやってきたつむぎの前で、こんなことを呟いていた。

「人から与えられたきっかけをいかに大切にするかで、人生劇的に変わるんだよなぁ」

 楠木はもともと歌手志望だったが、社長の一言を受け入れてマネージャーになっていた。この言葉は、姉からアドバイスを受けて面接を受けにきたつむぎへの後押しであり、さまざまな外的要因で解散を決めたマクベスを肯定するものでもある。自分が思い描いた道を進めなかったとしても、その人生は「失敗」でも「負け」でもないということだ。

 瞬太のバイト先の焼鳥屋「ボギーパット」店主の安藤(伊武雅刀)も忘れるわけにはいかない。若い頃は「ボギー安藤」というリングネームのボクサーだった彼は、マクベスを応援しつつ、家族と疎遠だった瞬太を家族同然に扱っていた。酔った春斗にしつこく絡まれても、腹を立てることなく「人に八つ当たりする前に、もっとやるべきことがあるんじゃないのか」と説き、謝罪も「お互い水に流そうぜ」と快く受け入れていた。

 母親を亡くして天涯孤独になった瞬太に「親だと思ってくれて、構わねえからな」と声をかける“大将”は本当に優しい大人である。

 里穂子の理解者は、アルバイト先のファミレスの店長・光代(明日海りお)だ。波乱万丈の冒険エピソードを持ち(ラストに登場したカルロスにSNSが沸騰した)、プロ雀士を目指している彼女だが、里穂子には社員の試験を勧めた上で、「ここに就職することはない、って考えるだけでも、進むべき道が限定されるからいい」と的確きわまりないアドバイスを送っていた。なにより、マクベス優先のシフトを組み続ける里穂子を許してあげるのも優しすぎ!

 社会の中で行き場を失っていた瞬太、つむぎ、うらら(小野莉奈)を受け入れていたスナック・アイビスのママ、良枝(松田ゆう姫)も印象深い。瞬太の母が亡くなったときには「責任持って面倒見ます」と葬儀で誓いを立てていた。詳しい経歴はわからないが、あの異様な洞察力と包容力から察するに、きっと数々の修羅場をくぐり抜けてきたに違いない。

 こうやって振り返ってみると、春斗、瞬太、潤平、里穂子、つむぎのまわりにいる大人たちは本当に優しい人ばかりだ。彼らはそれぞれ人生経験を積んでいるが、自分の経験や価値観、方法論を若者たちに押し付けることなく、絶妙な距離感を保ちながら、労を惜しまず、見返りを求めず、いつも絶対的な味方として振る舞ってくれる。社会の中で挫折しかかっていて、親とも上手くいっていない無力な若者たちには、彼らのような大人たちが必要だ。

 特に、真壁、楠木、安藤の男3人は、全員が若い頃に夢破れた経験を持っている、いわば「その後のマクベス」と言ってもいい。人生は他人から失敗のように見えても、実はちっともそうじゃないことがある。それを体現しているのが、この3人であり、だからこそ彼らはとことん優しいのだろう。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■配信情報
『コントが始まる』
Huluにて配信中
出演:菅田将暉、有村架純、仲野太賀、古川琴音、神木隆之介
脚本:金子茂樹
演出:猪股隆一、金井紘(storyboard)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太、松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE/Warner Music Japan)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
公式Twitter:@conpaji_ntv

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