『惑星サザーランドへようこそ』座談会
塩塚モエカ×小川紗良×甲田まひる×河合優実が語り合う、異色のSF作で築いた信頼関係
YouTubeチャンネル「みせたいすがた」にて連続ドラマ『惑星サザーランドへようこそ』が配信中だ。本作は、マルセイユ国際映画祭や全州国際映画祭などに出品された『小さな声で囁いて』の山本英が監督を務めたファンタジードラマ。地球で最も美しいとされる土地・サザーランドと間違え、千葉県館山市に不時着した3人の宇宙人が、別荘管理のアルバイトをする麗美と出会い、人間生活に触れていく。
地球探査の使命を背負った宇宙人「エヌマ」に小川紗良、甲田まひる、河合優実がそれぞれ扮し、彼女らを共同生活に迎え入れる人間・麗美を塩塚モエカ(羊文学)が演じた。
異色のファンタジードラマに出演した同世代の4人は何を思い、作品を作り上げたのか。撮影の裏側から、4人の関係性まで、山本英監督を交え、じっくりと話を聞いた(編集部)。
3人の宇宙人と1人の人間
――オファーを受けた時のお気持ちは?
塩塚モエカ(以下、塩塚):正式なお話を聞いたとき、ちょうど別の撮影で「演技って難しいな」と落ち込んでいたところだったので、断ろうかなと思ったんです(笑)。でも、バンドのスタッフさんでもある方から「私にやってほしいと思ってるんだよ」と言ってもらえて、トライしてみようと思いました。
小川紗良(以下、小川):ソーシャルドラマも、宇宙人役も初めてだったので、どうなるんだろうと思いました。でも、脚本がおもしろくて好きな世界だったし、共演者が、みなさん歳が近くてご一緒したいと思っていた人たちばかりだったので、撮影前はワクワクしていました。
河合優実(以下、河合):企画書と設定表を見たときは、「スクルドから来たエヌマ」って横文字がバーッと書かれていて驚いたけど(笑)、本当に詳しいところまで書き込まれてあって。すごく熱を持っている人が作っているんだなと伝わってきたので、お話をもらえたことが嬉しかったです。
甲田まひる(以下、甲田):最初に、女の子4人の日常を映すっていうことをイメージして、楽しみだなと思いました。そこからキャストさんのお名前を聞いて、優実ちゃんとはご一緒したこともあったし、みんないろんなジャンルで活躍されている方だったので、ますます楽しみになりました。
――演じる役柄について、紹介をお願いします。
塩塚:麗美だけ人間で、普通の女の子です。物事にあまり動じないけど、心の変化はしっかりあって、人のことを大切に思っている。あとは、ちょっとおじさんくさいところがあるんです。ワンカップを飲むシーンがあったんですけど、私もワンカップがすごく好きなので、台本でそれを見た時に、自分に近いところがある役なら「できるかも」と(笑)。ワンカップのおかげで、最後まで走りきることができました。
山本英(以下、山本):すごく似合っていましたよ。ビックリしたもん(笑)。
塩塚:「自分で持ってきたみたい」って言ってましたもんね(笑)。
小川:私が演じた波多野は宇宙人ということで、最初はどこまで宇宙人なんだろうって……「ワレワレハ」みたいな(笑)。でも、人間界に溶け込んでいて、普通の喋り方をしています。宇宙人の中で一番年上で、魚と一緒に寝るような破天荒なキャラクターなんですけど、思い込んだら突っ走っちゃう感じとか、自分に近いなと思いました。波多野でいることが心地よくて、あと1カ月くらいやりたかったです。
河合:私の役の麦は、自分が前に出ることはないし、バランスを取る役割で、そこは自分との共通点だなと思いながら演じていました。私はダンスが得意なんですけど、麦はあまりダンスが得意じゃないので、ダンスシーンで“一生懸命拍手をしている”と台本に書いてあるのを読んで「かわいいな」とも思いました。あとは、さっき麗美さんが「立ち姿がすごく綺麗だった」と言ってくれたんですけど、自分では意識していなくて。麦は“まっすぐ立っているような子”っていうイメージで、自然と体をそう動かしていたんだと思います。
甲田:私が演じた梅ちゃんは、宇宙から突然、地球に来てしまった芸術が好きな女の子です。キャラクターとしては、優実ちゃんに「あて書きみたい」と言われるくらい自分に近かったので、逆にプレッシャーというか、自分をどこまで出せばいいのかなって……。でも、音楽が好きだったり、ピアノに対する思いに共感できたので、楽しく演じられました。
――監督は、“宇宙人”の見せ方について、どのように考えていましたか?
山本:僕としても、宇宙人宇宙人しているようにはしたくなかったんです。あくまで、宇宙人の視点を借りて、人間の生活を違う角度から見られる作品になったらいいなと思っていたので、フラットに演じていただきたいと思っていました。
河合:宇宙人ってことを考えすぎるとわからなくなっちゃうので、とにかく「見るものすべてが初めてなんだ」と実感しながら演じるようにしました。最初はそれが難しいと思ったけど、難しく考えずフラットにやってみたら、すごくおもしろくなりました。
小川:波多野は鰹節をぶちまけたり、生肉にかじりついたり、初めてのものに果敢に触れていくところがあるので、私もそういう気持ちで楽しくやっていました。でも麦は、突飛なことがないからね。
河合:そう。だから、ラーメン屋さんのシーンで、なるとをグルグル見つめて、宇宙人だったらおもしろいと思うのかな、って想像していました。
小川:たしかに、なるとって銀河っぽいもんね(笑)。
甲田:シンパシー感じちゃった(笑)。私は、お話の中では“普通の人間”として見られているわけだから、そのまま人間として演じていた部分が大きいです。梅ちゃん本人も、そんなに宇宙人っていうことを意識していないのかなと思ったので、宇宙人であることより、末っ子っぽさを出せるように考えていました。
――塩塚さんは、ひとり人間役です。
塩塚:今、みんながこんなことを考えながら宇宙人を演じていたんだと初めて知って……私はまだ、ファーストステップの人間役でよかったなと思います(笑)。
全員が絶賛した贅沢な“弾き語り”シーン
――全5話の中で、特に好きな回を教えてください。
塩塚・小川・甲田:(即答で、河合がメイン回の)3話です。
河合:えーっ、嬉しい!
――「恋愛」について描かれた回ですね。
河合:モノローグで神様に向けて喋るシーンは、好きなセリフばかりです。「恋しました」とか「好きになりました」とかではなく「ビニールハウスで聞いた言葉や起きた事は、全ていつでも思い出せるように、記憶に刻んでおきたいと思ってしまったのです」と言うんです。人間だったら「恋だ」と思っちゃうけど、「恋」っていう言葉を知らなければ、そういう気持ちなのかなって。そのセリフを書いた(脚本家の)イ・ナウォンさんはすごいなと思いました。
――ほかの皆さんは、刺さったセリフなどありましたか?
山本:小川さんは、「『今を生きてるものが好き』っていうセリフが好きなんです」と言ってくれましたよね?
小川:波多野のキャラクターを掴むのに、一番手がかりになったというか、そのセリフが軸になりました。私も植物とか動物が好きなので、「今を生きてるものが好き」という感覚が、本当に自分と近いなと思いました。
甲田:セリフじゃないけど、梅ちゃんには“ファ”が聴こえないっていうコンプレックスがあるんです。好きなこと=得意なことじゃないってすごく辛いけど、きっと経験したことがある人も多いじゃないですか。梅ちゃんはそれがわかって、ほかに気持ちを向けようとするけど、やっぱり音楽に戻ってくる。そこはすごく好きなシーンだし、気持ちが入りました。
塩塚:麗美はもともと音楽が好きだったけど、やめてペンションを手伝っているんです。梅ちゃんに、実は自分も音楽をやっていたと打ち明けるシーンで、「才能以前に、好きが足りなかったからやめた」みたいなセリフがあるんですけど、私も仕事として音楽をやっていると、本当に音楽が好きなのかどうなのか、わからなくなる瞬間があって。自分の夢と、才能と、好きっていう気持ちについて、考えさせられるセリフでした。
――自分とリンクするような感覚も?
塩塚:自分が歌うシーンがあることで、より“自分と音楽”というものを考えることになりました。
――歌うシーンがあるというのは、どのような経緯があったのでしょう?
山本:第4話は「音楽」がテーマで、梅ちゃんがピアノを弾いてくれるシーンがあったので、麗美もなんらかのかたちで音楽に関われたらいいなと。あとは純粋に、塩塚さんの弾き語りを聴いてみたいなっていう(笑)。音楽って“演技”ではなく“表現”で、それをカメラに納められる機会はなかなかないし、2人だからできたシーンだと思うので、撮れてよかったなと思います。
――私も観ていて、弾き語りのシーンは得した気分になりました(笑)。ピアノのシーンでは、聴いているみなさんの表情が、ひとりずつ映し出されていくのも印象的です。
甲田:あれ、めっちゃ嬉しかったです。
河合:あのシーンは「こういう顔をしよう」とか、考えてなかったよね。
塩塚:うん。ずっとピアノを聴いてみたいと思っていたけど、すごかった。こんなことになっちゃうんだって(笑)。
甲田:いや、本当に緊張してレッドブルめっちゃ飲んだから(笑)。普段はジャズばかりでクラシックはそんなに弾かないので、台本以前にそこが緊張しました。弾いたことがない曲をお願いされたので、一週間くらいで覚えて。表情を撮りながら、音源も一発録りなので、ピアノに集中しちゃうと顔が大変なことになっちゃうし(笑)。
――たしかに、難しいですよね。塩塚さんも、普段とは違う緊張感が?
塩塚:ライブともミュージックビデオとも違うし、緊張しましたね。あれは、いつもバンドではなく弾き語りでやっている曲なんですけど、麗美がその時に思うことって、やっぱり自分が演奏している時とは違うじゃないですか。麗美だから、あまり起伏がある感じではないかなとは思うんですけど、いろんな感情がごちゃ混ぜになってるんだろうなって。ふだん歌詞を表現するのとは、違う感覚でした。