『リコカツ』離婚をテーマに描かれた結婚観 すれ違い続ける咲と紘一の歩みを振り返る

『リコカツ』咲と紘一の歩みを振り返る

 ただ、何も固定概念に囚われているのは紘一だけではない。咲が水無月先生(白洲迅)との打ち合わせにかかりっきりになっている間に、肝心な相談をするタイミングを失ってしまった紘一に対して、咲が「何で、そんな大事なこと話してくれなかったの?」と猜疑心を抱いてしまうシーンがあったが、この“すれ違い”もまた特に“共働き夫婦”あるあるだろう。さらに咲は“私はあなたの妻なのに……(そんな大事なことを話してくれないなんて)”と言葉を重ねるが、意外に咲も咲で要所要所で「こうあるべき」論を振りかざしていたりする。「夫婦なのに何で分かり合えないんだろうね」とこぼすシーンも描かれたが、筋金入りの旧式価値観の紘一だけでなく、皆それぞれどこかで何かに囚われていることを彼女自身が思い起こさせてくれる。

 難しいことなのは百も承知だが、「妻なのに知らされていない」ではなく「大切に思う相手に知らされなくて寂しい」、「夫婦なのに分かり合えない」ではなく「どうして一番大切で近くにいる相手なのに分かり合えないんだろう?」、「別居婚は嫌だ」ではなく「離れて暮らすのは寂しい、不安だ」と言い換えられたらお互いどれだけ楽になるだろう。あるいは、そういった自身の気持ちからくる不安なのではなく、単に「夫婦とはかくあるべき」という思い込みから外れてしまうことだけを懸念しての発言なのであれば、その部分にもう一度向き合った方がよほど根本的な解決に繋がりそうだ。

 自分たち2人の関係であることに変わりはないのに、どうして「夫婦」や「家族」になった途端に、主語が一般化されてそこに個別の想いが乗っかりづらくなってしまうのだろうか。おそらく皆が「家族」というものを過信しすぎているのだ。家族なんだから何でも通じ合って当然だし、そうあるべきだと。

 「この結婚に懸けている」と息巻いていた頃の咲は、どうしても自分が思う理想に相手のことも近づけたいという気持ちが透けて見えるような部分もあった(それゆえに何かすれ違いがあればすぐに「離婚」を切り出していた)。今は、予想とは全く違うことばかり起きるが、それでも“紘一の前での自分、紘一と一緒にいる自分”が好きで、それを心から楽しめているように思える。

 互いにやり直すために変わることを誓い合った2人が見つけた、“2人なりの幸せ”のカタチが楽しみだ。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好き。Twitter

■放送情報
金曜ドラマ『リコカツ』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:北川景子、永山瑛太、高橋光臣、白洲迅、大野いと、田辺桃子、中田クルミ、平岩紙、宮崎美子、酒向芳、三石琴乃、佐野史郎
脚本:泉澤陽子
演出:坪井敏雄ほか
プロデュース:植田博樹、吉藤芽衣
主題歌:米津玄師「Pale Blue」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作著作:TBS
(c)TBS

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