『大豆田とわ子と三人の元夫』は何の話だったのか? 最終話は不思議な構成に

『まめ夫』は結局何の話だったのか?

 唄が西園寺との恋愛で悩んでいる時、とわ子は亡き母親・つき子が出せなかった國村真への恋文を偶然、見つけてしまう。

 手紙を読んだとわ子は西園寺のことで悩む唄と共に國村の元を訪ねる。しかし意外なことに、國村真(風吹ジュン)は女性だった。

 とわ子と唄は、真からつき子との思い出を聞く。二人は小学校の時にバレエ教室で知り合い、何でも話し合える友達となった。「恋人だったの?」と尋ねる唄に対して真は「素直にそう言えるって素敵だね」と言った後、「ありがとう」と伝える。

 真は、とわ子が母に本当は愛されていなかったのでは? と不安に思っていることに気づき、「あなたのお母さんはちゃんと娘を家族を愛してる人だった」と言う。そして、つき子が「家族を愛していたこと」と「自由になりたかったこと」は、矛盾しているように見えてもどれも事実で、どれも嘘ではないと語る。

 最終話は不思議な構成となっており、おそらく本作が一番語りたかったエピソードは、若いのに抑圧的な恋愛をしている唄と西園寺の関係と、とわ子の母親・つき子が家族には見せなかったもう一つの顔で、どちらも今までの『まめ夫』同様、余白を残すことによって全体を描こうとしている。

 だが、このくだりは物語の前半で語りきってしまい、物語後半は「意味があるのだか無いのだかわからない」とわ子と3人の元夫の、ふわふわとした楽しいやりとりが延々と描かれる。

 初恋の相手・甘勝はあっさりと退場してしまい、その後、自動ドアに挟まって動けなくなったとわ子の姿が描かれる。

 そして、苦労の末にとわ子がマンションに帰ってくると、三人の元夫が順番に訪ねてきて、部屋の中にいる(と思い込んでいる)甘勝を探そうとするのだが、その時に「初恋を探してたんだ」「初恋が潜んでますね」と元夫たちが言うのが可笑しい。

 このシーンは、とわ子のマンションに隠れていた小鳥遊を三人の元夫が探そうとする第8話の反復となっている。今回は逆に、存在しない相手(初恋)を探して寝室のドアを開けるのだが、見えないものを描こうと腐心してきた本作を象徴する場面である。

 最終的に第1話と比べて少しだけ変化したとわ子たちの姿が描かれた後、ドラマ本編は終わるのだが、最後まで観終わった後、「結局、これは何の話だったのだ?」と、戸惑っている自分がいる。

 おそらく脚本を担当した坂元裕二は、シリアスともホラーともコメディともつかない簡単に言語化できない手触りを作品に残したかったのだろう。だとすれば、本作は大成功である。とわ子と三人の元夫の関係と同じように本作もまた、うまく定義できないことが心地よい、曖昧でふわふわとしたドラマであった。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■配信情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレドーガ、TVerにて見逃し配信中
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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