『ひげひろ』“演技派”市ノ瀬加那が見せる可能性 荒唐無稽な話を成立させる存在感
4月から放送・配信が始まったアニメ『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』(以下『ひげひろ』)が注目を集めている。これは日本だけでなく海外でも同様で、世界最大級のアニメデータベースサイト・MyAnimeListでは『不滅のあなたへ』『イジらないで、長瀞さん』といった作品に次いで、『東京リベンジャーズ』と並ぶほど多くの32万人ほどが本作を評価している。
そんな『ひげひろ』は26歳のサラリーマン・吉田が路上に座り込む女子高生・沙優を“拾い”、そのまま自宅で同居させるというラブコメディだ。北海道の自宅から家出してきた荻原沙優は、これまで自分の体と引き換えにさまざまな男の家を渡り歩いてきた。しかし吉田は彼女の誘惑には乗らず、そんな生活を辞めさせようとする。
吉田の少し妙な正義感を始め一見荒唐無稽な話ではあるが、本作の1話放送時に原作小説を手掛けるしめさばも「自分のことを常識人だと思い込んでいるヘンなサラリーマン吉田と、価値観のおかしくなった女子高生沙優が、少しずつ自分の生きてきた道を振り返り成長していく物語」と自身のTwitterで紹介している通り、あくまでそのおかしさをわかった上で紡がれているフィクションのお話。設定を念頭に入れつつ、ふたりの距離や心の変化を楽しむのが筋だろう。
この『ひげひろ』でメインヒロインの沙優を演じているのが新進気鋭の女性声優である市ノ瀬加那だ。奇しくも沙優と同じく北海道出身である彼女は2016年にデビューし、2018年には『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のイチゴ、『色づく世界の明日から』の風野あさぎでメインキャラクター役に。さらに『Fairy gone フェアリーゴーン』のマーリヤ・ノエル、『キャロル&チューズデイ』のチューズデイといった大役を務め、2019年の大作映画『天気の子』にも女性警官の佐々木巡査役で出演。そして2021年3月に発表された第15回「声優アワード」では新人女優賞をした。
これまでの彼女が演じてきたのは、どちらかと言うと影や儚さ、不憫さを感じさせるキャラクターが多い。そもそも先述の、彼女の名をあげたイチゴや風野あさぎといったキャラクターは恋愛面で報われない“負けヒロイン”的な立場。2019年の『ひとりぼっちの○○生活』では名前の通り暗い過去を匂わせる一匹狼な倉井佳子を演じ、今期アニメの『聖女の魔力は万能です』におけるアイラは、主人公の聖女であるセイと対のような存在として登場している。
そんな経歴の中では2020年の『社長、バトルの時間です!』のメインヒロインで幼馴染のユトリアが異色だが、彼女も主人公を取り巻くヒロインのひとりに留まり、また恋愛よりコミカルな要素のほうが強い一作だった。つまり市ノ瀬にとって『ひげひろ』の沙優は初の恋愛アニメにおけるメインヒロイン役なのだ。