大豆田とわ子にとって小鳥遊の存在とは 『まめ夫』“三人の元夫”が体現するもの

『まめ夫』3人の元夫と小鳥遊が体現するもの

「仕事と恋愛の距離感」問題で光る、とわ子にとっての小鳥遊さんの存在

 さて、「めんどくさい」との向き合い方以外にも本ドラマで描かれる、私たちを悩ませるもの、それは「仕事と恋愛の距離感」だったりする。もうこれこそ、めんどくさい。もともと慎森との離婚の原因もそれに近いし、これについて深く考えさせられたのが、第5話に登場したイベント会社の社長・門谷(谷中敦)とのやりとり。とわ子は、仕事相手との恋愛が別にナシなわけではない。しかし、門谷に関しては、プロポーズの返事次第で契約書にサインするかしないかというパラハラ行為もあり、もはや仕事と恋愛以前の人間性に問題があったと言える。

 大人になると、学生時代のように出会いが多いわけではないし、むしろ仕事関係の人とばかり知り合っていく。かといって、社内の人や取引先の人と恋仲になったら、仮にその関係が破綻したとき仕事にも支障が及びそうで怖い。そういった普遍的な悩みのなかで生まれるのが「仕事とプライベートは切り離すタイプかどうか」という問いだと思うのだが、慎森と門谷が切り離さないのに対して、完全に切り離すキャラクターとして登場したのが小鳥遊さんだ。最初、公園で会った時と会社で会った時の態度が激変しすぎていて、視聴者から「サイコパス」なんて呼ばれてしまった彼だが、その後とわ子に「それとこれとは別」と仕事で敵対関係にいるにも関わらず、プライベートでは会っていたいと告白した。以降、とわ子は職場でのことはさておくことができ、小鳥遊さんに気持ちを募らせていった。

 実はとわ子も、「それとこれとは別」の価値観であることが第7話で会社の後輩である 松林カレン(高橋メアリージュン)への態度からも窺える。会社を半ば裏切る行為をした松林が、それが知られる前に体を労られてもらっていたギフトをとわ子に返そうとするが、「ポカポカは別だよ!」と断られるシーン。実は、同話の冒頭ではフルーツサンドを食べようとするも、一緒に食べようとすると失敗し、結局フルーツとパンを別々に食べて満足するとわ子が描かれていた。一見なんでもない描写のように見えるが、これは「分けることでうまくいく」ことの暗喩でもあり、そのため最初こそは小鳥遊の二重人格ばりの変わりように驚くものの、同じ「分ける考え」のとわ子と彼が上手くいくことを表していたりして。

 一方、職場でもほとんどプライベートに近い空気感で接してくる慎森は、門谷とも違って良い距離感を保っている。良い具合で適宜彼女のメンタルを気にしてあげたり、サポートをしてあげたりする。こっちはこっちで、近くで見守ってくれている感じがして良いようにも思えるが、とわ子は改めて慎森からの告白を断ってしまった。もしかしたら、もう彼女の中では“終わったこと”だから、会社での彼との距離感もさほど深く考えていなかったのかもしれない。こういった本ドラマにおける仕事を軸にした異性との関わり方や、恋愛の歩み寄り方への着目は、女性のキャリア志向が当たり前になった今だから、仕事を優先しつつも先述のように「一人でも生きていけるけど〇〇」な女性が増えたという社会の流れを象徴しているのではないだろうか。

 第8話では、第1話から言っていた網戸を小鳥遊さんが直してくれた。「直せますか?」「もちろん」というやりとりは、そのまま2人の今後の関係を暗喩しているよう。彼が第4の夫候補であることは、もう間違いない。それに3人の元夫と違って、小鳥遊さんはとわ子にとっての「未来」である。特にこれは八作と対比関係にあって、八作はかごめという死者への思い出を共有できる相手ではあるものの「過去」で、1年経ってもそこから一歩も進めなかった彼女にとって必要だったのは、前に進める相手、歩きながら見える景色であり、それはすなわち小鳥遊さんなのだ。

 しかし、直した直後に再び外れてしまった網戸が、不吉な予感をさせる。直せるけどすぐに壊れてしまう、つまり他の夫と同じようにまた破綻してしまいそうな雰囲気の小鳥遊さんととわ子が今後どうなっていくのか、そこに絡まっていく3人の元夫にも最後まで着目してきたい。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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