『オッドタクシー』はブラックコメディアニメの傑作だ 日本社会に対する強烈な風刺劇

 深夜アニメ『オッドタクシー』は、タクシードライバー・小戸川宏を中心とした群像劇だ。登場人物は二足歩行の動物として描かれており、主人公の小戸川はセイウチ、小戸川のかかりつけ医・剛力歩はゴリラの顔をしている。

 動物のキャラクターを用いて寓話的な世界を展開するアニメというと、近年ではディズニー映画の『ズートピア』や板垣巴留の漫画をアニメ化した『BEASTARS』などがあり、アニメと動物の相性はとても良いのだが、この二作とくらべると『オッドタクシー』は動物であることの意味は薄く、人間の物語でも充分成立しそうである。

 逆に言うと、それくらい物語が生々しいということだ。もしも『オッドタクシー』が人間のキャラクターで作られていたら、辛くて見ていられなかったかもしれない。

 ジャンルとしては一種の犯罪モノで、宮藤官九郎脚本のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)や真鍋昌平の漫画『闇金ウシジマくん』(小学館)を彷彿とさせる社会派テイストのダークな物語となっている。おそらく動物のビジュアルにした最大の理由は、殺伐とした物語を抵抗感なく見せるためだろうが、同時に動物の世界にある食物連鎖の構造を人間の経済活動に置き換えたかったのだろう。

 アイドルのCDを複数購入するキャバクラのボーイとして働く今井(スカンク)。マッチングアプリで知り合った女性と付き合うために借金を重ねる清掃員の垣花(シロテナガザル)、承認欲求を求めるあまり、SNSや動画配信で逸脱した行動をおこなう大学生の樺沢(コビトカバ)、看護学校に行くために借りた奨学金の返済に苦しんでいる看護師の白石(アルパカ)、お笑いオーディション番組で優勝することを目指しているお笑いコンビ・ホモサピエスの柴垣(イノシシ)と馬場(ウマ)といったキャラクターたちが悩みを抱えながら経済的に追い詰められていく姿は切実である。

 親しみやすい絵柄なので、最初はユルい動物モノのアニメだと思って軽い気持ちで観ていると、セイウチの小戸川やシロテナガザルの垣花に人間的なものを感じ、思わず共感してしまう。ちなみにどちらも41歳のおっさんで、恋愛や結婚は無理なんじゃないかと思っているが、どこかにチャンスがあるのではないかと、しあわせになることを諦めきれずにいる。特に身につまされるのは垣花が転落していく姿で、途中から目が離せなかった。遠い存在に思えた動物のキャラクターたちが次第に自分や自分の知り合いの姿を見せられているかのような生々しさを見せるようになり、やがて他人事ではなくなっていく。実写の映画やドラマでも、こんな気持ちになる作品は滅多にない。

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