『リコカツ』ついに“全員離婚家族”に 北川景子×永山瑛太らそれぞれのケースを考える

『リコカツ』ついに“全員離婚家族”に

 咲の両親のケースは、“暗黙の了解”で成り立っていた夫婦のルールを夫・武史(平田満)が一方的に破ったパターンだ。いくら現代的で自由な家庭と言えど、それぞれの夫婦内に敷かれている“この一線は超えてはいけない”というボーダーを超え、“親しき中にも礼儀あり”の“礼節”をうっかり欠いてしまっては取り返しのつかないことになる。他の女性の影があることをその度気づいていたものの、それを「浮気」だとは決して認めなかった武史が、港区女子・里奈(中田クルミ)とのデート(?)現場に突撃し問い詰める妻・美土里(三石琴乃)に対して悪びれず、茶化したように浮気だと開き直る姿に美土里の堪忍袋の緒が遂に切れた。おそらく、正にしろ武史にしろ、「何を今さら!? そんなことは今に始まったことじゃないだろう?」と妻の言い分を聞いて思うのだろうが、女性の腹の底に抱え込む力を、子ひとり宿せるその腹底深くにずっと育み続けられる力を舐めてもらっては困る。

 それに比べて、紘一と咲は離婚する理由も前話で5つしか挙がらず、両親に理由を聞かれても明言できない。離婚後互いに送り合えなかった「元気?」という近況確認連絡の代わりに、紘一から些細な、とるに足りない「離婚する理由その6」が送られてくる。

 これを皮切りに「その7」「その8」と重ね合う姿は、もはや恋人同士のじゃれ合いのようで微笑ましくもある。LINEで文字を打つスピードが遅く歯痒くなった紘一が痺れを切らして思わず電話する流れも“2人らしい”。恋人と別れた後にその存在の「喪失」を感じるのは、実はなんてことない今日の出来事をダラダラと脈絡なく電話で報告できるような相手やその時間自体が自分の生活からなくなってしまったことを実感するときだったりする。大人になればなるほど、たわいもない話ができる相手こそ貴重になってくるものだ。

 クリーニングから戻ってきた紘一のワイシャツをわざわざ彼の実家まで届ける咲も、離婚した理由を使い慣れないLINEで律儀にも送ってきた紘一もそうだ。何かしらの“口実”が欲しいのだ。“用事があるから”“約束したから”という大義名分がないと、自分の気持ちに素直に行動できない。互いに別の異性の存在にヤキモキし、相手が他の人といるところに遭遇するといてもたってもいられなくなり、大人げもなく突き放してしまう。これって、もうれっきとした「恋の始まり」じゃなかろうか。それに前話では、離婚届を出しに向かった紘一を咲が追いかけ、今回は食堂から足早に立ち去ろうとする咲を紘一が追いかける。2人は面白いくらいに、順番に追いかけ、追いかけられる。やっぱり相性抜群なのだ。

 2人の母親は、結婚中に“聞き分けが良かった(振りをしていた)”から離婚を切り出せず離れられなかった。これが、紘一と咲の場合には、“聞き分けが良い(振りを互いに必死にしている)”から、離婚撤回を言い出せず(一度は離婚撤回になったのに)「離婚」を回避できなかった。人が「嘘」をつく瞬間こそ、その裏には絶対に知られたくはない本心が隠されている訳で、紘一も咲も互いのことを想い合っており、しっかり惹かれ合っているからこそ、もう引き返せはしない「リコカツ」には不都合な真実として、その想いをひた隠しにし合っているように見える。

 紘一と咲それぞれに想いを寄せる恋敵の出現に、2人が否応なしにも早々にまた次の恋愛や再婚に向き合わざるを得なくなるようだ。これに触発されて、次は2人が“雪山での遭難時の救出劇”のような何もかもを吹き飛ばしてしまう“非日常の極みの運命的な出会い”かつ“2人だけの世界”の中で出会うのではなく、皆がいる世界の中で互いの輪郭をなぞり直し、日常生活の延長線上で再び恋し合ってほしいと願うばかりだ。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
金曜ドラマ『リコカツ』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:北川景子、永山瑛太、高橋光臣、白洲迅、大野いと、田辺桃子、中田クルミ、平岩紙、宮崎美子、酒向芳、三石琴乃、佐野史郎
脚本:泉澤陽子
演出:坪井敏雄ほか
プロデュース:植田博樹、吉藤芽衣
主題歌:米津玄師「Pale Blue」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作著作:TBS
(c)TBS

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