スパイク・リーと共作 デヴィッド・バーンが語る『アメリカン・ユートピア』の皮肉と希望
さらにスパイクとのコラボレーションをよりダイレクトに感じさせるのが、ジャネール・モネイ「Hell You Talmbout」をカバーするシーンだ。この曲は人種差別を糾弾し、その犠牲になった人たちを追悼する歌。映画では犠牲者の写真を持った遺族が次々と登場するが、これは映画オリジナルの演出であり、これまで作品を通じて人種問題を訴えてきたスパイクらしいストレートな怒りを感じさせる。
「最初、スパイクが『遺族をショウに招待しよう』と提案したんだ。観にきてくれた遺族の方々はとても喜んでくれた。それを知ってスパイクが『映画に殺された犠牲者の写真を入れよう』と提案してきた。そのアイデアを初めて聞いた時は、映画を観る人によってはヘビーに感じるんじゃないかと不安だったけど、同時にパワフルな演出になると思って最終的にやることにした。曲だけでもエモーショナルなんだけど、そこに写真が加わることでより力強くなる。僕は映画でこのシーンを観るたびに泣いてしまうんだ」
『アメリカン・ユートピア』の特徴はユニークなパフォーマンスに加えて、そこに人種差別や移民問題など様々な社会問題を織り交ぜていることだ。ショウが行われた2019年は、翌年に大統領選挙を控えていた。バーンは声だかに問題提起をするのではなく、ユーモアを交えながら観客にフランクに語りかけて音楽でコミュニケートする。その語り口の絶妙さに、バーンのアーティストとしての成熟を感じさせた。
「問題意識を持っていても、『こうすべきだ!』とステージの上から観客に言うのは違う気がする。そんなふうに他人から言われたら楽しくないからね。だから僕は自分の経験について語ろうと思った。それを観客がどう思うかは自由。これまでもコンサートで観客に話しかけたりすることはあったけど、このショウではいつも以上に観客に語りかけて、彼らのリアクションに耳を傾けた。リアルな対話をしているように感じてもらうためにね。それがとても重要だったんだ。そうすることで、観客は僕らが言いたいことをしっかり理解しようとしてくれるんだ」
この混沌とした時代に掲げた『アメリカン・ユートピア』というタイトルは、皮肉のようにも聞こえる。しかし、映画を観れば、これがバーンが未来に向けて蒔いた希望の種だということがわかるだろう。
「誰もがユートピアに対して強い憧れを抱いていて、その憧れが僕らを導いてくれる。その時に道から逸れないためのガイドが理想であり、それがこのショウのテーマのひとつなんだ」
アートがユートピアへの道を照らす存在になることを、2人の鬼才がタッグを組んだこの素晴らしい映画が証明してくれるはずだ。
【インタビュー後編】
『アメリカン・ユートピア』の希望を感じさせる音楽 デヴィッド・バーンが語る、選曲の物語性
■公開情報
『アメリカン・ユートピア』
5月28日(金)、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー
監督:スパイク・リー
製作:デヴィッド・バーン、スパイク・リー
出演ミュージシャン:デヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ジャルモ、ティム・ケイパー、テンダイ・クンバ、カール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サンフアン、アンジー・スワン、ボビー・ウーテン・3世
配給:パルコ ユニバーサル映画
2020年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/107分/原題:David Byrne’s American Utopia/字幕監修:ピーター・バラカン
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公式サイト:americanutopia-jpn.com