『ここぼく』があぶり出す意味のカモフラージュ 『ワンダーウォール』のアンサーの側面も

『ここぼく』が映す、意味のカモフラージュ

 意味のカモフラージュは戦うべき対象をぼかしてしまう。戦う前に戦意を喪失させる戦法。はなから戦う気がないとたかをくくっているのだ。それは表現の自由を叫ぶ浜田にも言えることで、三芳の英断で講演会が開催されると聞くや否やすっかり及び腰になってしまう。ただ1人、教え子たちの言葉に動かされて本来の“怖い人”になった三芳だけが大学人としての矜持を貫いた。

 戦う相手を持たない怒り、達成されなくてもよい自由。曖昧模糊とした社会では守るべきものを容易に見失ってしまう。それでは理想を掲げることに意味はないのかといえば、そうではない。教え子の記者が語ったように「こうした努力を続けることが、世界を少しでも良くしていくために必要」なのだ。それはあたかも目の前にある壁の向こうに人間がいなくて、システムと対峙しなければならなかった『ワンダーウォール』(NHK総合)の問いに対する答えのようである。諦めずに相手の人間性に訴えていくことが、遠回りのようで結局近道なのかもしれない。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』
NHK総合にて、毎週土曜21:00〜21:49放送 ※4K制作
出演:松坂桃李、鈴木杏、渡辺いっけい、高橋和也、池田成志、温水洋一、斉木しげる、安藤玉恵、岩井勇気、坂東龍汰、吉川愛、若林拓也、坂西良太、國村隼、古舘寛治、岩松了、松重豊ほか
作:渡辺あや
音楽:清水靖晃
語り:伊武雅刀
制作統括:勝田夏子、訓覇圭
演出:柴田岳志、堀切園健太郎
写真提供=NHK

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