『ここぼく』があぶり出す意味のカモフラージュ 『ワンダーウォール』のアンサーの側面も

『ここぼく』が映す、意味のカモフラージュ

 「この物語はフィクションです」と言うときの「フィクション」はどのくらいフィクションなのか? 『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)第3話は、今ここにある現実に着想を得ながら、今より少しだけ明るい未来を描いた。

 論文不正をやりすごした真(松坂桃李)の次なる仕事は、中止になった講演会の釈明会見だった。帝都大学100周年を記念した連続講座が開催される。しかし、ゲスト講師として登場するはずだったジャーナリスト浜田剛志(岡部たかし)がネット上で炎上してしまう。ことの経緯はこうだ。韓国の人気グループBGSのメンバーが撮った写真に浜田の著書『日本僻地論』のポスターが写り込む。ポスターで親指を下に向けている浜田のポーズとメンバーのとった新曲の振付けがたまたま一致し、「見下されてる国、日本」のキャッチコピーと相まってメンバーが公然と日本ディスをしているかのように受け取られる。浜田もメンバーとともにバッシングされて炎上。学内の安全を危惧した大学は講演会の中止を決定するが、浜田は「表現の自由」を訴えて騒動に。帝都大学はトップの三芳総長(松重豊)の記者会見で事態の収拾を図る。真も恩師の三芳を支えようと、ない知恵を絞って奮闘する。外国特派員協会で行われた会見では、逃げ一辺倒の三芳に記者が質問を放つ。

 TEDを模したロゴだけでなく、どこかで聞いたことがあるような著書のタイトルや過去にあった炎上騒ぎを想起させる点で相当皮肉が効いているが、一連の騒動の始めと終わりで問題の焦点が異なっていることは見過ごせない。ナショナリズムに端を発したもらい事故のようなバッシングは表現の自由に軸足を移し、騒動の相手もネット民から大学当局に変わる。そこに見えるのは「私たちは何(誰)に対して戦っているのか?」という問題意識だ。

 「総長の好感度維持」が狙いと公言する真は、会見の想定視聴者に注目する。外国人は見るはずがないと踏んで、中身のない言葉の羅列で逃げ切る作戦だ。「狙われる原因はいつも意味です。会見という公に向けた言葉には意味を最小限に控えることこそ、日本における正しいリスクマネージメント」。まるで独裁国家の宣伝相のような言辞。まったく笑えないどころか、下手すると私たちが生きる社会のそこかしこで目にする光景でもある。言葉が通じる同国人に向けて堂々と意味のカモフラージュを画策するのだ。

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