『トロピカル~ジュ!プリキュア』に込められた“願い” “明るくたのしい”作風の所以を探る
本作と同様にコメディテイスト強めで、シリーズ屈指の“明るくたのしい”作風だったのが、2012年より放送されたシリーズ9作目『スマイルプリキュア!』だ。『スマイルプリキュア!』がこうした作風になったのには、明確な理由がある。それは前年の東北地方太平洋沖地震で明るさを失った子どもたちに、アニメを観ている間だけでも“笑顔”になってもらいたいという願いによるものだった。
昨年から日本は新型コロナウイルス感染症という、まさに東北地方太平洋沖地震以来と言える大きな困難に晒されている。『トロプリ』の『スマイルプリキュア!』を踏襲するような作風からは、この危機によって様々な自由を奪われた子どもたちに、常夏のような明るさを取り戻してほしい――といった“願い”を感じずにはいられない。
もちろん本作はただ笑えるだけでは終わらない。子どもたちの情操教育も担う『プリキュア』シリーズだけあって、彼女たちに様々な“気づき”を与えるストーリーにもなっているのだ。
たとえば『トロプリ』の第7話では、本好きのキャラクター・一之瀬みのり(キュアパパイア)を通して、物語で自分とは異なる境遇の人物に触れることで、他者の気持ちを想像できるようになるという、読書のポジティブな側面がストーリー上の重要な要素となっていた。
また、まなつたちが滝沢あすか(キュアフラミンゴ)にお弁当のつくり方を教わる第8話では、毎日手作り弁当をつくる大変さを描きつつ、「余った晩ごはんのおかずを詰めてもいいし、冷凍食品だって美味しい」と、“手間を省く”ことを肯定的に視聴者に伝えて見せた。
底抜けに明るいストーリーを展開しながらも『トロプリ』は、「いま一番大事なことをやる」まなつと同様、子どもたちに「いま一番伝えたいこと」をしっかり伝えることも忘れない。きっとそれは、子どもたちが様々な立場の人々の気持ちに寄り添えるようになることこそ、未来を“明るくたのしい”ものにする第一歩だと、制作陣が心から信じているからではないだろうか。
プリキュア公式YouTubeチャンネルでは『トロピカル~ジュ!プリキュア』第1話、第2話の期間限定見逃し配信が4月30日まで行われている。この2話を観て本作の空気感に惹かれたならば、ぜひ次の日曜日に放送される最新話から、本作をリアルタイムで追ってみてほしい。
■小林白菜
ゲームやアニメーション、漫画などを中心に、作品の魅力について紹介する記事を複数のメディアに寄稿。アニメーションでは『プリキュア』シリーズや『アイカツ!』シリーズなど、女児向けの作品を特に好んでいる。note/Twitter
■放送情報
『トロピカル~ジュ!プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜日8:30~9:00放送
シリーズディレクター:土田豊
シリーズ構成:横谷昌宏
キャラクターデザイン:中谷友紀子
美術デザイン:今井美紀
色彩設計:柳澤久美子
音楽:寺田志保
制作:ABCテレビ、ABCアニメーション、ADKエモーションズ、東映アニメーション
(c)ABC-A・東映アニメーション