『イチケイのカラス』が提示する法廷劇の新たなパターン 思い出すのは『HERO』?

『イチケイのカラス』が描く新たな法廷劇の形

 月9で裁判官を主人公にしたリーガルドラマとは、ずいぶんと地味な題材ではないかと思いきや、なるほどこれは『HERO』(フジテレビ系)と限りなく近いものを感じずにはいられない。検察官が確証を以て起訴した被告人に対して、弁護側と検察側双方から持ち寄られた証拠に基づいて判決を下す裁判官という職業性を、いかにドラマティックに見せることができるのか。4月5日に放送がスタートした『イチケイのカラス』(フジテレビ系)は、とてもユニークでポップなテイストで、これまでさまざまな形で作り倒されてきた法廷劇の新たなパターンを発見するドラマになりそうだ。

 東京地方裁判所第3支部第1刑事部、通称“イチケイ”に、東大法学部出身で堅物タイプの特例判事補・坂間千鶴(黒木華)が赴任してくる。早速社会科見学の中学生の相手をすることになった坂間は、そこで失礼な質問を投げかける男に苛立ちを覚える。引率の教師だと思ったその男は、元弁護士の裁判官・入間みちお(竹野内豊)だった。部長裁判官の駒沢(小日向文世)の指示で、ある傷害事件に入間と駒沢と3人の合議制で取り組むことになった坂間。代議士の不正献金疑惑が関わっているその事件について、裁判長を務める入間は突然“職権発動”と称し、現場検証を行うことを提案するのである。

 劇中でも触れられている通り、刑事訴訟法第128条には「裁判所は、事実発見のため必要があるときは、検証することができる」と明記されているわけだが、それはかなりイレギュラーなことだ。しかしそのイレギュラーに踏み込む理由として入間はこう語っている。「本人が納得していない刑を下すとどうなると思う? 出所したらまた罪を犯すかもしれない。今度は傷害では済まないかもしれない。すべて分かった上で、この事件に関わった人全員にとって一番良い判決を下したい」。事件の裏に隠された真実を見つけ出すことこそが、絶対的に揺るがない正義であると考えるそのスタンスは、やはり前述の通り『HERO』において木村拓哉演じた久利生公平と通じるものがある。

 とりわけ今回のエピソードは、これがどんなドラマなのかを示す上で、その類似性をあえて明確に押し出してきたように思える。代議士による不正献金疑惑によって議員秘書だった男性が罪を背負って自殺し、その男性の息子が代議士に傷害をはたらく。そして入間は、父が自殺するはずないという被告人の言葉に従い、その死の真相を探っていき、代議士の男が目撃者を揺さぶり不正献金疑惑を揉み消そうとしていたことを明らかにする。ディテールこそ違えど、これは『HERO』の劇場版第1作によく似ている。しかも司法の公平性を揺るがす象徴として描かれやすい政治家という立場の人物を、いきなり第1話にやり玉にあげてしまうというのもなかなか挑戦的で興味深いものがある。

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