『ドラゴン桜』山下智久の演技は現在に繋がっていた? 作品のバトンは高橋海人へ
その6人の生徒たちが、現在から振り返ってみればあまりにも豪華すぎるというのが、この『ドラゴン桜』の最大のポイントであることは忘れてはなるまい。往々にして学園ドラマは多くの若手俳優たちにとって出世作となりうるものだが、このドラマも例外なく2005年当時に将来が期待されていた6人が生徒役を務めている。当時NEWSのメンバーだった山下智久を筆頭に、長澤まさみ、新垣結衣、中尾明慶、小池徹平、紗栄子(当時はサエコ名義であった)。彼らのその後については改めて説明する必要もないだろう。単なる若手俳優の登竜門としての次元を軽く飛び越える10割の出世率は、もはや他の学園ドラマと同じように括ってしまうのもはばかられるほどだ。
とりわけその中でも、山下が演じる矢島勇介というキャラクターは、まぎれもなくこのドラマのもうひとりの主人公であり続けた。第1話の冒頭で、借金取りに絡まれているところを桜木に助けられ、その後体育館で演説をする桜木に真っ向から反論する。そして家の借金を肩代わりしてもらうという買収めいた手段を駆使された上で東大進学クラスに引き込まれる。自分が無知であることに誰よりも早く気付き、そこから抜け出すための方法を徹底的に模索する。つまり本来の主人公たる桜木は、矢島にとってのメンターに過ぎないというわけだ。そして同時に、クラスに入る他のメンバーを引き込む役割を果たしたり、長澤演じる幼なじみの水野直美を支えたり、すべてにおいて矢島というキャラクターがいなければドラマが成立しなかったことがよくわかる。
この矢島という役柄を、山下の俳優としての経歴と照らし合わせてみると実に興味深い。当時20歳になりたてだった山下。それまで『ランチの女王』(フジテレビ系)や『Stand Up!!』(TBS系)などで見せてきたちょっとやんちゃで朗らかな10代の学生としての面影と、翌年主演を務めることになる『クロサギ』(TBS系)などで得る20代の青年としての新たな一面のちょうど中間地点にあるのが、この『ドラゴン桜』と、次のクールに控えていた『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)であったわけだ。『野ブタ。』でも明るいキャラクター性とは裏腹に父親との関係に悩みながら、“プロデュース”をすることで学校生活のおもしろさと友情を見出し、『ドラゴン桜』でも同様に家庭環境と自分の夢との折衷を見つけ出せずにもがいていたところで、勉強を通して新たな夢を得るのだ。
また『ドラゴン桜』では、演技と同時に自身が作詞も務めた楽曲「カラフル」が挿入歌として起用され、ソロアーティストとしての道も切り開いている。こうしたいくつものターニングポイントが集約されている作品を、山下がジャニーズを退所して積極的に海外にも活躍の場を拡げているいまのタイミングで改めて観るというのはなかなか感慨深い。周囲とぶつかったり助け合ったりを繰り返しながら、自分自身を知り、自分なりの夢とそれを追うための決断をする劇中の矢島の姿は、現在の山下の飛躍と確実に結びついているのではないだろうか。
2021年版の『ドラゴン桜』でも、前作に負けない演技力と話題性をもった現代の若手俳優界のトップレベルの顔ぶれが生徒役として揃い、その中にはKing & Princeの高橋海人の名前も含まれている。高橋が演じる役柄は、両親が遺したラーメン店を姉と切り盛りするという複雑な家庭環境と同時に、将来に対する不安感を抱えているという役どころ。前作における矢島と水野を想起させるものがあるだけに、前作での山下のように物語の中核を担うポジションとなることだろう。山下から高橋に『ドラゴン桜』という作品のバトンが受け継がれるとなれば、ここはやはり、長澤だけでなく山下をはじめとした前作の生徒キャストの再登場を期待せずにいられない。
※高橋海人の「高」は「ハシゴダカ」が正式表記。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■番組情報
日曜劇場『ドラゴン桜』
TBS系にて、4月25日(日)スタート 毎週日曜21:00~放送
※初回は25分拡大スペシャル
出演:阿部寛、長澤まさみ、高橋海人(King & Prince)、南沙良、平手友梨奈、加藤清史郎、鈴鹿央士、志田彩良、細田佳央太、西山潤、西垣匠、吉田美月喜、内村遥、山田キヌヲ、ケン(水玉れっぷう隊)、鶴ヶ崎好昭、佐野勇斗、早霧せいな、山崎銀之丞、木場勝己、江口のりこ、及川光博ほか
原作:三田紀房『ドラゴン桜2』(講談社刊)
プロデュース:飯田和孝、黎景怡
脚本:オークラ、李正美
演出:福澤克雄ほか
製作著作:TBS
(c)TBS
「『ドラゴン桜』新シリーズ直前!~2005年版再放送~」
TBSにて、4月5日(月)深夜23:56~24:55に第1話放送(※一部地域を除く)
※第2話以降の放送日時は番組表にて