大泉洋、“うだつのあがらない”役柄から完全に脱皮 あてがきを超えた『騙し絵の牙』

大泉洋、“うだつのあがらない”役柄から完全に脱皮 あてがきを超えた『騙し絵の牙』

 速水は時にあっと驚く選択をするし、凝り固まった会社組織を変革させるために策を練ったりすることはあるが、部下、特に新人編集者の高野(松岡茉優)たちをないがしろにすることはない。原作の速水にはもっと色恋沙汰もあったり、プライベートも描かれるが、映画でそこが描かれなかったからこそ、抑えた速水の中の魅力が際立ち、ドキっとさせられることもあったのではないだろうか。

 しかし、いつも大泉洋は、自分自身のことを「破天荒なところがない慎重な男である」と語っている。筆者がインタビューしたときにもそう語っていた。

 だからこそなのだろう。大泉洋自身は、速水を演じることが難しかったと各所で語っている。しかし、考えてみると面白いものである。この速水という役は、原作の塩田武士が大泉に取材を重ねて出来上がったキャラクターである。そこから映画化が決まり、大泉洋が実際に演じるとなった際に、大泉が演じることを鑑みて、監督・脚本の吉田大八と脚本の楠野一郎によって肉付けがされた。まさに、あてがき中のあてがきのキャラクターなのである。

 実は原作の速水は愛すべきキャラクターで、雑誌の編集長としての決断も、いろんな編集部員の意見を受け入れがちで、独断的な部分はなくバランス重視の人である。そんな部分は、「破天荒なところはなく慎重な男である」と言っている大泉により近いキャラクターであった。しかし、映画の速水はもっと戦略的でアグレッシブな部分が多い。このことが、大泉の新境地を引き出し、映画としても最後まで結末の読めないエンターテインメント作品になったのではないかとも思えるのである。

 あてがきが本人の思う自分自身の姿とは違うというのに、ここまで魅力的に見えるということは、大泉洋が今まで出していなかったものが、この作品で開花したということなのではないか。40代後半になって、俳優がこうした魅力的なキャラクターを新たに自分のものにできるということは、なかなかないことではないだろうか。観客としても、この先、速水がまたどんな策をめぐらせて出版界で生きていくのかを見てみたいと思えた。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
『騙し絵の牙』
公開中
出演:大泉洋、松岡茉優、宮沢氷魚、池田エライザ、斎藤工、中村倫也、坪倉由幸、和田聰宏、石橋けい、森優作、後藤剛範、中野英樹、赤間麻里子、山本學、佐野史郎、リリー・フランキー、塚本晋也、國村隼、木村佳乃、小林聡美、佐藤浩市
監督:吉田大八
脚本:楠野一郎、吉田大八
原作:塩田武士『騙し絵の牙』(角川文庫/KADOKAWA刊)
配給:松竹
(c)2021「騙し絵の牙」製作委員会
公式サイト:movies.shochiku.co.jp/damashienokiba/
公式Twitter:@damashienokiba

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