『おちょやん』高城百合子はなぜ視聴者から愛される? 千代とは異なるヒロイン像を体現

『おちょやん』高城百合子はなぜ愛される?

 主人公の天野アキ(のん)が憧れ、付き人にまでなったひろ美はアキに女優のイロハを教え、バーターとして役を与えていく文字通りの師弟関係を結んでいた。勝手にこれまでの事務所を辞めて、アキの家族がやっている小さな事務所に移籍するなど、我が道を行くスタイルは浮世離れした大物女優ならでは。ズバズバ言う性格も、天然キャラゆえにどこか憎めない。そうした周りに媚びずに生きて行く姿と、人生のアドバイスをしっかりと要所で伝えるカリスマ性、そして大物なのに愛嬌があるところが視聴者に愛される理由で、高城と共通しているところでもある。

 ただ、似ているようで真逆なのは、鈴鹿は、裏で作品の文句を言って納得をしなくても、本番ではきっちり仕事をこなすこと。高城はそうではない。自分が納得できないものは表に出そうとせず、公私ともにワガママで自分のスタイルを曲げない不器用さに、鈴鹿とは違った愛嬌と悲哀がある。

 今週ではそんな高城の役者としての姿勢が、千代のそれとは違うことがはっきりと浮き彫りに。千代のもとを突然訪れた高城と小倉だが、実は特別高等警察に追われていたのだ。検閲で自分がやりたい芝居ができないことを嘆く高城を千代は家庭劇に誘うが「戦争に乗じて客に媚を売るような芝居をしたくないの、私はいつだって命がけで演じてきた」とつっぱねる。逆に「ウケればそれでいいの? あなたが女優としてあなたが望むものは、そんなちっぽけなものだったの?」と問う高城だったが、千代は「うちは喜劇役者だす。お客さんに喜んでもらえばそれでよろしいねん」とキッパリと言い放つ。そんな高城は「あなたとは分かり合えないわね」と返すも、続けて「それでいいのよ。女優同士がわかりあう必要なんてない。あなたはあなたの信じることを貫きなさい」と理解を示し、最後は無言のまま抱き合い、メーテルのような姿で去っていくのだった。

 自分の演じたい芝居をすることが最優先という考えは高城らしい発言だが、千代のように、観客を笑わすために検閲から逃げずに戦っている喜劇を「ちっぽけ」と言ってしまうところに、いち視聴者として正直寂しさも覚えた。だが、自分を安売りせず、様々な権力と戦ってきたからこそ、高城はこれまで大女優の地位を築いてきたとも言える。

  これまで、高城の登場は千代の転機となってきたが、今回の高城の登場は、千代が喜劇役者としての誇りと覚悟を確認するための、いわば女優としての最終試験を意味していたのではないだろうか。千代と対照的なヒロインとしてさらに興味深いキャラクターとなった。

 以前から、高城のモデルは、その経歴から大正から昭和にかけて活躍した女優・岡田嘉子と噂になっていたが、今回のソ連に亡命するという話でいよいよ噂は確かなものに思える。岡田は史実では、亡命するも現地で収監され、終戦後はモスクワに残りアナウンサーになったが、高城はどんな運命を辿るのか? 人気キャラなだけに、その行く末が気になる。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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