伏黒恵の精神的成長と領域展開 『呪術廻戦』第23話で描かれた“思考の解放”
現在『週刊少年ジャンプ』で連載中、芥見下々原作のアニメ『呪術廻戦』(MBS/TBS系)。3月19日に放送された第23話「起首雷同-弍-」では、伏黒恵が八十八橋の呪いと、虎杖悠二が血塗と対峙するなか、突如現れたもう一体の呪胎九相図が釘崎野薔薇を結界外に引き摺り出す。
前回に引き続き、伏黒に焦点が当てられたまま進んでいく物語。もぐら叩きの要領で八十八橋の呪霊を一掃しようとする中、釘崎が何者かに襲われると伏黒は虎杖に何の迷いもなく「“釘崎”優先! 追え!」と指示する。そう、彼はこれまで自分とその命を優先させることがなかった。しかし、それ故に彼の呪術師としての成長は止まってしまったと言える。
五条悟の言葉を借りれば、彼は“何を打ってもいい状況で、送りバントをする”タイプだった。いや、正確にいえば誰かの塁を進めるために自分がアウトになっても良いという性格だ。回想シーンでは、姉妹校交流会後に、五条悟に手合わせをしてもらっている伏黒の姿が。この時、担任の五条は彼が本気を出せない理由に、伏黒の自己犠牲前提の思想を挙げた。彼は悪人も善人も嫌いで、自分の姉が圧倒的善人タイプであることを苦手に思っていた。
しかし、そんな彼もやはり善人なのだ。中学の時に周辺の不良や半グレがボコられていたのも、弱いものいじめをする輩だったから。自分の持つ力を意識したうえで、他人と線引きをしてきた。少年院で虎杖と意見が食い違った点も、その後虎杖の心臓を取り戻そうとした時も、彼の善悪における思想と自己犠牲の精神が如実に現れている。そして、自分の命を投げ打ってもいいという時、彼がいつも唱える“布瑠部由良由良”。今回も、八十八橋の呪いもとい特級呪霊相手にこれを繰り出そうとした。それこそ五条の指す「奥の手」なわけだが……私たちがその全貌を知るのはもう少し先のこととなりそうだ。
今の彼は、いつの間にか先を越していた虎杖のように自分も強くなりたいという意思が強い。そして思い返せば、我々は物語の序盤で珍しく彼が自分の気持ちを優先させた瞬間を見ている。宿儺を取り込んだ虎杖を、殺さないでほしいと五条に頼んだ場面。そう、明らかに伏黒は虎杖と出会ったことで彼から大きな影響を受けているのだ。無意識なうちに他の登場人物の成長を促す力を持つ虎杖は、こういう時にやはり最強の主人公だなと感じてしまう。