新劇場版は映像表現における壮大な実験場だった 『シン・エヴァ』冒頭12分に見たその真髄

『エヴァ』映像表現における壮大な実験場

 昔の特撮映画に飛行機等が登場する場面では、模型を吊るしている釣り糸が見えてしまうことが多かった。その意味で、特撮映画のお約束をネタにしたパロディにも見えるが、逆に釣り糸が見えていることが、SFアニメのリアリティを支えしているのが『シン・エヴァ』の面白さだろう。同時に「あえて、釣り糸を見せる」こと自体に、庵野作品の本質が現れているようにも感じた。

 『エヴァ』が新劇場版としてリビルドする際、庵野監督の中には、様々なテーマがあったと思うのだが、表現における一番の課題として、CG(コンピューターグラフィックス)をアニメの中にどう取り込み、どう馴染ませるのかというテーマがあったのではないかと思う。

 その際に庵野監督が試みたのは、映画『アバター』のような、CGを駆使して完全な異世界を構築するという方向ではなく、3DCGを使って、昔ながらの特撮を再現するというものだった。

 この方向性は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で、より明確なものとなる。物語の舞台となる第3新東京市のバーチャルなジオラマをPC上に作り、そこに3Dモデルのエヴァや使徒といった巨大生物や、車や鉄道を模型のように配置して動かしていく。同時に、プリヴィズ、バーチャルカメラ、モーションキャプチャー等の技術を駆使することで、今までにないカメラワークをアニメの中に持ち込むことに成功している。

 パリ戦の後の、農村(第3村)の描写や、戦艦内部のメカニカルな映像も見応えが多く、『シン・エヴァ』によって一体化したアニメと特撮とCGと実写映像の未来を感じさせてくれた。

 劇中に登場する空中戦艦AAAヴンダーが、地球上の動植物の遺伝子を保存する「ノアの方舟」のような役割を担っていたことが明らかになるのだが、あの場面を見て『エヴァ』というアニメ自体が、セルアニメや特撮映画の遺伝子を残して未来に残すための方舟だったのだと、改めて思った。

 『ヱヴァ』は、映像表現における壮大な実験場だった。その集大成が『シン・エヴァ』冒頭のパリ戦だった。

 フランス語で書かれた「後をお願い」という文字と、「この街を残したかったあなたたちの想いを引き継ぎます」というマヤの台詞は、庵野監督が先輩たちから託されたバトンを受け取った証であると同時に『シン・エヴァ』を観ている観客たちに向けた「次は君たちの番だよ」という監督からのメッセージだと、筆者は受け取った。

 だから、泣けて仕方なかったのだと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
全国公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
副監督:田部透湖、小松田大全
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、沢城みゆき
(c)カラー
公式サイト:https://www.evangelion.co.jp/final.html 
公式Twitter:@evangelion_co

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる