『俺の家の話』令和の時代に間に合わなかった親子の姿 娘は母を裏切っていた父を許せない

『俺の家の話』令和に間に合わなかった親子

 さらに、舞は母の存命中から寿三郎が浮気していたことを「あきらめただけで、心から許したわけじゃない。たぶん一生許せない」とはっきり告げる。亡き母は舞の部屋に来て泣いていたと語り、「そういうの忘れないからね、娘は」と言う。ここは女性から観て、クドカンよくぞ描いてくれた!というセリフ。“母を裏切っていた父を許せない娘”というのは、向田邦子からの昔からホームドラマのテーマになっており、ジェーン・スー原作の新ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』(4月9日スタート、テレビ東京系)でもこの問題がフォーカスされる。寿三郎の女癖の悪さは、演じる西田の愛嬌もあって、ともすれば笑って済まされるようにも描かれていたが、この舞のセリフがあったことで、2021年の今ならではの作品になった。寿三郎もまた令和の時代に“間に合わなかった”父親なのかもしれない。

 以前の見栄っ張りで家長然とした寿三郎なら、きっとグループホーム行きを拒否しただろうが、子供たちから恨みつらみをぶつけられて去られ、好きだったさくらも寿一と結婚するつもりだと知り、さらに認知症が進んで能の指導もおぼつかなくなってきたという状況になり、あっさり「行ってもいいよ」と承諾する。そこには風呂でさくらに言ったように「寿一はね、人に頼るのが下手」だからという親心もあっただろう。

 やはり能のことになると、師匠である寿三郎は厳しく、今回も寿一を「お前になんか継がせない」「はなっからお前になんか期待していない」と突き放していたが、それとは別に親子としての情愛は深い。寿一がスマホに録画した動画メッセージを見る顔は、愛おしげだった。寿一の望みは第1話からずっと「親父からほめられる」ことなのだが、あと2話でその念願は叶えられるのだろうか。3月19日放送の第9話では塚本高史がゲスト出演し、葬儀屋を演じるとあって、寿三郎の余命があとどのぐらいなのかたいへん気になる。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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