『俺の家の話』令和の時代に間に合わなかった親子の姿 娘は母を裏切っていた父を許せない

『俺の家の話』令和に間に合わなかった親子

 残すところあと2話。3月12日放送の『俺の家の話』(TBS系)の第8話は、主人公の寿一(長瀬智也)が父親の寿三郎(西田敏行)をグループホームに預けるところで終わった。住み慣れた自宅を出て入所する父親に餞別(せんべつ)としてエッチなトランプを渡す息子。後ろ髪を引かれるような思いで去っていく息子の背中をいつまでも見守る父親。見送られた寿一は振り向かずに「もういいよ。早く行けよ」とつぶやき、目一杯に涙を溜めていた。

 長瀬智也と西田敏行の共演は今回で3作目。同じ宮藤官九郎脚本の『タイガー&ドラゴン』(TBS系)では落語の師匠と弟子役、同じく『うぬぼれ刑事』(TBS系)では元警察官の父と息子役だった。『タイガー&ドラゴン』でもほとんど擬似親子のような関係で、最終回、刑務所から出てきた虎児(長瀬智也)の元に師匠のどん兵衛(西田敏行)が駆けつけ、お互いに「また弟子にしてください」「弟子になってください」と言って頭を下げ、固く抱き合う。その様子を落語『子は鎹(かすがい)』の夫婦に重ねて描いていただけに、2人の間にはどん兵衛とその実子・竜二(岡田准一)より強い絆があるように見えた。『うぬぼれ刑事』でも、父の葉造(西田敏行)が息子のうぬぼれ(長瀬智也)に、自分と同じ警察官の道を選んでくれたのがうれしかったと言い、うぬぼれの優しさが犯罪者を救っていると励ます。つまり、まっすぐな性格の心優しき男を長瀬が演じ、そんな息子(のような存在)がかわいくて仕方がない父親を西田が演じてきた。この関係性は『俺の家の話』でも変わっていない。

 まるで恋人のような、夫婦のような父と子。そんな愛情の交換は微笑ましく感動的なのだが、そもそも家父長制において長男は父親から権限を受け継ぐ立場であり、兄弟が複数いれば、当然、そこから弾かれる子供が出てくる。寿一の妹・舞(江口のりこ)は、「この家で女でいることが、どんっだけしんどいか」と秘めていた不満をぶちまける。異母弟の寿限無(桐谷健太)は寿三郎の入浴の介助をしていたが「(介助は)寿一じゃないとやだ」と言われてしまい、激怒。弟子としても息子としても選ばれていないと寿一に訴えて家を出ていってしまう。さらに、弟の踊介(永山絢斗)も、想いを寄せるさくら(戸田恵梨香)が寿一と付き合っていたことに怒り、実家に寄りつかなくなっていた。そして、観山家には寿三郎と寿一の2人だけが残された。

 そんな中でも特に舞が本音を明かした場面は印象的だった。代々、男が継承してきた能楽師の家で跡継ぎにはなれないとされたことが、本当は悔しかったのだ。まるで同じ伝統芸能である歌舞伎役者の家のようで、尾上菊五郎の娘だが歌舞伎役者にはなれなかった寺島しのぶのことを連想した(「息子に期待するしかないじゃん」という舞のセリフからも)。ただ、実際の能楽の世界では女性の能楽師や狂言師が誕生しつつあるので、舞はその変化に間に合わなかったということになるだろうか。

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