高橋一生演じる日高の重層的なパーソナリティ 『天国と地獄』に散らばる謎を考察

『天国と地獄』散らばる謎を考察

日高も誰かの意志に翻弄される側!?

 日高のことを自らの手で捕まえることは叶わなくとも、これ以上日高が人を殺すことのないように止めることはできるのではないかと意を決する彩子。すり替えた証拠品の手袋を渡すのと引き換えに、日高に殺さない約束を迫る。もし約束ができないのであれば、あのおぞましい殺人動画を今すぐに捜査一課に送ると捨て身の覚悟で。

 そんなことをすれば彩子の人生も終わりだということは百も承知。だが彩子にとって、その正義感こそが「私」である最後の砦なのだ。「この際、2人仲良く地獄行きといきましょうよ。それがある“べき”世の姿なんだから!」こんなときに彩子の“べき論”が光るのが切ない。周囲の助けも借りながら、日々「日高陽斗」である自分を受け入れていく中で、それをなくしたら“これっぽっちも私じゃなくなってしまう”と、彩子は必死に「望月彩子」であった自分を保っているのだ。

 そんな彩子の覚悟に「だから、あなただったんですか」と目を潤ませ、どこかホッとしたような表情を浮かべる日高。これまで日高は「月と太陽の伝説」をほのめかすなど、すべての真相を知っているかのように見えたが、この言葉は彩子との魂の入れ替わりが日高にとっても想定外の相手だったとも取れる言い回しだ。

 田所仁志の「2」、四方忠良の「4」。被害者たちの手の平に記された「Φ」。曇ったバスルームの鏡に指で描きながら「次は何番ですかね」とつぶやく日高は、まるで誰かの動きを待っているかのような口ぶりだ。漫画『暗闇の清掃人』でも、魔女の手のように爪の伸びた大きな手が数字の紙を差し出しているシーンが描かれていた。

 ちなみに、最初に「Φ」が描かれていた未解決事件の被害者・一ノ瀬正造にも名前に数字が入っている。もし今後も殺人事件が続き、その被害者が全て数字に関連している名前という共通点があるのだとすれば、日高が所持していた殺人リストでは次の候補となる人は限られてくるのだが……。

 いや、むしろ河原三雄、八巻英雄、捜査第一課長・十久河広明(吉見一豊)、管理官・五十嵐公平(野間口徹)、さらにはコ・アース社秘書・五木樹里と、日高や彩子の周囲にもいる名前に数字を持つ人物にも注目が集まる。さらにボストン時代に日高がシリアルキラーとして容疑をかけられたことを証言した九十九聖(中尾明慶)の名前にも数字が。果たして事件との関係はあるのだろうか。

 また、気になるのはキレイ好きな日高と掃除のうまい陸(柄本佑)が暮らすキッチンのタイルがひどく汚れていた点だ。きっと日高のこと、ホワイトシチューを作るだけなら手際よく調理したと予想されるのに。あの汚れっぷりには、どうしても違和感を覚えてしまう。キッチンで、日高は一体何をしようとしていたのか。

 そして、彩子の姿をした日高に、殺人鬼との二重人格を恐れながらも何の戸惑いもなく問いただす陸にも引っかかるものがある。多くの人の場合、八巻のように「自分が殺されるのでは」と恐れるはずではないだろうか。そんなリスクを考慮せずまっすぐに向かったのは、陸の方に何か思うところがあるからなのだろうか。

 さらに、密会に適しているスパを、日高は「富樫さんと一度利用したことがある」と話していたのも気になるところ。日高の記憶障害について、社内のメーリングリストで一斉に共有されたほど透明性の高い会社で、2人が人目を忍んで話さなければならない何かがあったということなのだろうか。

 回を重ねる毎に、ますます謎は深まる一方。登場人物の全てが疑わしくも見えてくる。引き続き、映し出される全ての情報を丁寧に拾い上げ、想像力を膨らませていく面白さをじっくりと味わいたい。

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS

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