スケートカルチャーで知るアメリカの若者のリアリティ いま観たい最新スケボー映画3選
『mid90s ミッドナインティーズ』(2018年/監督:ジョナ・ヒル)
続いてやはり米西海岸、カリフォルニア州のロサンゼルス。ただし時代設定はタイトルどおり、1990年代の半ば。『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007年/監督:グレッグ・モットーラ)や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年/監督:マーティン・スコセッシ)などで知られる人気俳優のジョナ・ヒル(1983年生まれ)が、自らの少年時代の経験をもとにした監督デビュー作。スケーターチームの仲間たちと共に過ごした日々を通し、13歳の少年の多感な思春期模様を描いた珠玉の青春映画だ。配給・製作はA24。
本作の物語は、スケーター文脈を核にしたストリートカルチャー沸騰期の90年代における、「そこら中に存在していたZ-BOYSチルドレン」の一典型を描くものとでも言えるだろうか。少年時代のジョナ・ヒルが自己投影されたキャラクターである主人公のスティーヴィー(サニー・ソルジック)をはじめ、5人組のチーム男子は、家庭や学校とは違う自分たちの居場所を求めて路上やスケートパークに集まっている。だが彼らの間には様々な「格差」がある。今は祝祭の日々、パーティーの時間を共有しているが、実は境遇も経済状態も才能もそれぞれ違う。その差異が徐々に顕在化して友情にも亀裂が生じ、やがて道が分かれていく――。まさに『ロード・オブ・ドッグタウン』に通じるほろ苦さと甘酸っぱさ。
実際にストリートカルチャーやファッションに精通しているジョナ・ヒルの自伝的作品だけあり、本作の“ミッドナインティーズ”の時代像は本当にリアルだ。安価なTシャツとバギーパンツ。当時のスケートビデオや、無名時代のハーモニー・コリンが脚本を書いたクロエ・セヴィニー主演のカルト作『KIDS/キッズ』(1995年/監督:ラリー・クラーク)辺りをロールモデルにした、LAのスケートパークを捉えるスーパー16mmのザラついた映像とHi8の魚眼レンズ。ピクシーズ、バッド・ブレインズ、ミスフィッツ、ア・トライブ・コールド・クエスト(ATCQ)……オルタナティブロックとハードコアパンクとヒップホップが交差する「過渡期的な選曲」は“あの頃の感じ”そのまま。血肉化された90年代の表現がここにある。
この作品が持つリアリティの質は、ジョージ・ルーカス監督の『アメリカン・グラフィティ』(1973年)に近いのではないか。ルーカスが実際に青春を過ごした1962年夏のカリフォルニアを舞台に、当時彼が体感していた風景を焼き付けたあの名作。書き割り的な「62年のヒット曲」ではなく、「バディ・ホリーが死んでから(1959年)ロックンロールは下り坂だ」(Rock and roll's been going downhill ever since Buddy Holly died.)という価値観を軸にした選曲など――。
『mid90s ミッドナインティーズ』も『ロード・オブ・ドッグタウン』も『アメリカン・グラフィティ』も、ボーイズクラブ型の祝祭が、やがて哀切に変わる。これまで幾度も、無数に至る場所で繰り返されてきたこの青春群像の形は、次に紹介する作品の位相にもつながってくる。