『さよならテレビ』から『空に聞く』まで 2020年のドキュメンタリー映画を振り返る
ここ数年、ドキュメンタリー映画を観る機会が増えた……というか、「面白いドキュメンタリー映画を観たい」という思いが、年々強くなっている。「記録映像」としての意義はもとより、自分の知らない「世界」、あるいは知らなかった「事態」、そして「人物」を、関係者たちの「声」や「解説」によって、より立体的に理解させてくれる映像作品。そんなドキュメンタリー映画を、今年も数多く観ることができた。けれども、それに順位をつけるのは、どうも違うような気がしている。ドキュメンタリーは、ときとして、その作品の「強度」や「完成度」以上に、そこで描かれている事件の「重要性」や、そこに込められた人々の「思い」そのものに価値があるのだから。よってここでは、自分が今年観て印象に残ったドキュメンタリー映画を時系列に沿って並べながら、2020年を振り返ってみることにしたい。これもひとつのドキュメント(記録)だと思うから。
まずは、年明け早々に公開された『さよならテレビ』。『ヤクザと憲法』(2015年)や『人生フルーツ』(2016年)といった作品で広く知られるようになった、東海テレビ「ドキュメンタリー劇場」の第12弾である。2018年、東海テレビの開局60周年記念番組として放送されたものの再編集劇場版となる本作が問うのは、ズバリ「テレビメディアの存在意義」だ。東海テレビで働く3人の人物を通して浮き彫りとなるテレビメディアの矛盾と問題点。忖度なしに突き付けられるそれらの問題は、やがてそれを求める視聴者、すなわち我々自身にも跳ね返ってくるのだった。仮に、視聴者の「欲望」に応えるのがメディアであるとするならば、その「欲望」の正体とは何なのか。それ以前に、我々はその「欲望」について、どこまで自覚的であるのか。安易な「結論」を導き出すのではなく、その内部にいる人間がひたすら自問自答し、悩み続ける姿を描いた「人物ドキュメンタリー」としても秀逸な一作だった。
3月20日に公開された『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』も、とりわけ強い印象が残っている。1963年5月、東大駒場キャンパスに三島由紀夫を招いて行われた討論会の模様を記録した秘蔵映像を再編集し、そこに関係者や識者の新たなコメントを挟み込んだ構成となった本作。三島を迎え撃つのは、当時隆盛を誇った東大全共闘の面々だ。そこで強く印象に残っているのは、ときに無礼な言葉を投げ掛けながら、三島を怒らせ論破しようとする学生たちの話にしっかりと耳を傾け、彼らに対して思うこと、伝えたいことを真摯に語ろうとする三島の、どこまでも人間的な姿勢なのだった。周知の通り、三島は同年11月、割腹自殺する。そこから50年が経った今、その文学的達成によって、ともすれば神格化されようとしている三島由紀夫という人物の「生身の姿」、そしてその「人を惹きつける力」を知るには格好のドキュメンタリー映画だ。
一方、その頃アメリカでは、3月20日からNetflixで配信が開始されたドキュメンタリー・シリーズ『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』(全7話+1)が、大ブームを巻き起こそうとしていた。その主人公は、オクラホマ州で私設動物園を営む、非常にエキセントリックな人物、ジョー・エキゾチックだ。トラの繁殖ビジネスも行っている彼の「怪しさ」と「胡散臭さ」を、密着カメラと関係者たちの声によって明らかにしようとする本作。というか、その関係者たちも十分「エキセントリック」で「怪しい」というのが、本作の見どころなのだろう。2018年に逮捕、懲役22年の判決を言い渡され、現在も獄中にいるジョーは、果たしてどんな罪を犯したのか。その底なしの「自己顕示欲」の奥底には、果たしてどんな「闇」があったのか。新型コロナウイルスによる外出自粛という状況も、大いに影響したのだろう。この異形の「人間ドラマ」に世界が大興奮したことも、ある意味2020年を象徴するひとつの出来事だったのかもしれない。